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第41話 テゾーロ神聖国第1王女オフィーリア
―――一触即発。
そんな空気に満ちているパーティー会場。弟夫婦の結婚を祝うつもりが、まさかの兄夫夫 への宣戦布告。それほどまでに彼女は俺との結婚に執着していたのか。
テゾーロ神聖国は、聖女や聖者を神の化身のごとく崇めていると言っていい。しかしながら長い間聖女や聖者の発現が確認されていない。
聖魔法に近い光魔法使いならば代々のテゾーロ神聖国王族に多く現れることで知られている。目の前のテゾーロ神聖国第1王女オフィーリアのように。
その一方で、聖女や聖者の発現が多いのが我が祖国・カレイド王国だ。だからテゾーロ神聖国は何とかしてその血を自らの王族に組み込もうとしている。しかし希少な聖魔法使いだ。いくらテゾーロ神聖国が望もうと、要求しようと「はい、どうぞ」と渡すこともできない。
強引な手に出ようものなら、カレイド王国は迷わずグラディウス帝国を取るだろう。現に聖者である俺がグラディウス帝国に嫁いでいるのだから、両国の結びつきはより一層強いものになってしまった。
そしてテゾーロ神聖国は焦ってしまったのだろう。そしてオフィーリアを後押ししているのは十中八九古参の血統主義者たち。彼らは聖女や聖者を崇めるものの、自国で独占したいと虎視眈々と狙ってきたのである。
特にオフィーリアの俺への執着は今思えば異常だった。元婚約者のラピスがいる前でも媚びを売るように腰をくねくねさせたり、ボディータッチしたりとあからさまである。
まぁ、相手は次期女王候補とだけあって、当時のちょっとやらかす前段階だった俺としても抗議したことはなかった。女王陛下はまともだったし、みな聖者である俺を特別視していたからオフィーリア以外はあからさまに手は出してこなかったからだ。
恐らく彼女としては、俺の相手がラピスからアイルたんに変わっただけで、引き続き俺のことを狙っているらしい。
相手がグラディウス帝国皇帝でもお構いなしというわけだ。
「ほら、ラティラさまっ」
オフィーリアは上目遣いで俺をうるうると見つめながら、そっと俺の腕にそのか細くホワイトアスパラガスのような指で触れようとしてくる。
パシッ
ん、あれ?
今回も相変わらずのボディタッチ祭りをおっぱじめられると思いきや、彼女の雪のように白い指の先が赤くなるほどに叩き落とされていた。
彼女の指を叩き落としたその手は。
「―――っ!」
アイルたん!
驚いて横を見やれば。アイルたんがむすっとしながらオフィーリアをねめつけていた。
「お、王女である私に何と言うことを!これは立派な暴力ですわ!あなたのような暴君が我が国の聖者を無理矢理連れ去り伴侶にしたと言うのは本当だったようですね!」
オフィーリアはアイルたんに堂々と人差し指を突きつけ、勝ち誇ったように宣言する。
「貴様こそ、我が皇后に何たる無礼。あと、たかだか王女に我が妻の名を呼ぶ権利を与えた覚えはない」
アイルたんかっこい~っ!あくまでアイルたんは俺を助けてくれただけ。夫 が他の男にべたべた触られようとしていたら、普通は触れさせないよねっ!―――あ、オフィーリアは女性だけど。
あと、アイルたんのどこが暴君じゃぁっ!!アイルたんは相変わらず俺にでろ甘である。たまに肉欲が激しくなるけども、それでも優しくしてくれるし愛を感じるし。
国政においても悪政を敷いているわけではない。宰相と共にグラディウス帝国の発展に取り組んでいるのだ。アイルたんはそのカリスマ性も相成って、国民に広く受け入れられているのだっ!
ウチのアイルたんは最強最高の存在なのであるっ!うむっ!
「オフィーリア王女。今回の無礼については、女王陛下に直々にお話させていただいてもよろしいでしょうか」
俺はこう見えてもテゾーロ神聖国の女王陛下にはかわいがられているし、皇后として嫁いだ後もお祝いの文をもらったこともある。
「な、何故ですの!?えっと、母上には私からよくお伝えしておきますわ!」
「何とお伝えするおつもりですか?」
「え~っと。その。ラティラさまは」
「名を呼ぶな」
ここでアイルたんの威圧が入る。
「わたくしは、ラティラさまご本人から許可をいただいております!」
「いや、与えてないけど」
「えっ!?」
何だ、その素っ頓狂な表情は。テゾーロ神聖国では“聖者さま”と呼ばれることが多い。女王陛下には第1王子殿下と呼ばれたことはあるが、女王陛下にだけは“ラティラ”でいいですと言ったことがある。しかしながらオフィーリアは勝手に呼んできただけである。
ついでに当時婚約者であったラピスは彼女のその言葉に首を傾げていた。ちょっとだけ調子に乗っていた当時の俺とは言え、そんなラピスの反応の意味が分からないはずがない。俺が特に気にしていなかったので、敢えてラピスも言わなかったが……。
……ウチの旦那のアイルたん的には不快らしい。もちろん家族が呼ぶのは気にしないけれど。他人が愛称で呼んで来たらそれも気にしそうだな。
だけどそんな嫉妬もアイルたんからの愛を感じるので俺としてはめちゃ萌えアイルたんまじかわゆす、と言う感じである。(いや、どういう感じだ、それ。できればニュアンス的なもので捉えてくれると嬉しい)
「わかりました。このようなおめでたい場ですし。今回の失言は目を瞑ります」
「ラティラさまぁっ!」
「けれど、私の名を呼ぶことは今後お控えください。今の私の立場はグラディウス帝国の皇后ですので」
アイルたんが嫉妬してくれるのは嬉しいけどっ!でもちょっと嫌だなと思える。今ならばあの時、俺の名前を不躾に呼んできたオフィーリアに剣呑な眼差しを向けていたラピスの気持ちも分かる。もちろん、ラピスも表面上は笑みを浮かべていたが、目は笑っていなかった。―――確実に。
「そ、それはグラディウス帝国の皇帝陛下の横暴です!」
「何だと?」
オフィーリアの言葉に、アイルたんが覇気を抑えることなく溢れさせる。
「ひっ」
そのすごみに、オフィーリアが思わずびくつくのが分かった。
「私は自ら望んでグラディウス帝国の皇帝陛下に嫁ぎ、そして皇帝陛下が私をお迎えくださいました。これは双方の合意の上の婚姻であり、両国でも正式な合意を交わしております。今の発言は聞かなかったことにいたしましょう」
これでどうだ!
「そんなのは国家の陰謀です!」
いや、ここその国家の一方であるカレイド王国なんですけど!?俺はオフィーリアのお付きと思われるテゾーロ神聖国のメンツに視線を送る。
―もうテゾーロ神聖国に手ぇかさねぇぞ。散々ラピスにケンカを売っといて、今度は聖女のラピスに頼れると思うなよ―
―――と言う圧を加えて。
俺のにんまりとした笑みが効いたのか、慌ててテゾーロ神聖国の使者たちがオフィーリアを抑えにかかる。
「ちょっと、無礼よ!私はラティラさまとお話を!」
「行こうか、ティル」
アイルたんはそんな彼らのやり取りには構わず、俺の肩に手を回し踵を返す。
「あぁ、うん。弟夫婦のめでたい席を台無しにはできないしな」
こっち側はこんな空気になってしまったが、何とかオフィーリアを退場させて盛り返して欲しい。そう願う俺なのであった。
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