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第50話 聖者と聖女の秘密

「―――そう言えば、今日はルークさんがいませんね。また寝坊ですか?」 うん、ユーリ。よくぞそこにツッコミを入れてくれた。いや、みんな気が付いていただろうか。ルークの名前は出していても、一向にルークが出てこないことに。 ひとまず俺は、朝ご飯を食べ終えてクロード、ユーリ、メイリンを集めた。もちろん俺はアイルたんに至極大事に抱っこされながら頭をなでなでされている。 あぁ、そんなに大事にされてたら、また眠くなっちゃう。すや、すや。 ―――いや、ダメだっ!寝てはいけない!いい感じで黒ウサコスチュームの裏地がめっちゃふわふわで着心地がいいけどもっ! 「それはカレイド王国の国家機密も含まれるんだ」 本当はルークの事情も関係しているのだけど。あくまでも国家機密の部分は俺の体質の件だ。 「む、しかしティルは俺の伴侶だ。当然知る権利はあろう」 「うん、もちろん。それに、ここにいるみんなは信頼しているから、聞いて欲しい」 いや、俺もすっかり忘れていたんだよ。ここ最近いろいろありすぎての平穏な日々だからな。 「ルークさんは信頼していないってことですか?」 「もしくはケンカなさったのですか?」 「むしろラティラさま、言い負かされて泣かされそう」 いや、そこかい!ツッコむところはそこかい!因みにセリフはユーリ、クロード、メイリンの順番だ。そしてメイリンの言うことにも一理ある点が悲しい。 「いや、ルークのことは信頼してるし。そのっ、ケンカもしてない!」 「ちっ」 何でそこ舌打ちしたのアイルた~ん。な、仲良くしてね?? 「あの、えっと。聖者には月の満ち欠けによって力が弱くなる時と、強くなる時があるんだ」 「それは、初耳だな」 「うん、聖女に関してもあるんだけど。それはもしかしたらテゾーロ神聖国も知っているかもしれない。けど、その日を狙って手を出してこない以上は長い歴史の中で忘れ去られたのかもしれない」 それならば、現在知っているのはカレイド王国のごく限られた関係者のみだ。聖者は月の満ち欠けによって力が変動する。その逆で聖女は太陽の状態によって力が変動する。 聖女が力を制限されるのは主に“極夜”と呼ばれる時期だ。いる地域は関係ない。南部であろうと北部であろうと発生する。時期的には後宮に候補として入っているリリィ姫の故国・ノルド王国やカレイド王国の北部の一部に見られる極夜と言う太陽がのぼらない時期のことである。この時期の聖女の力は極端に制限される。0になるわけではないが弱くなるのだ。 その他にも日食や、月の力が強くなる日、つまりは満月の日は力が弱くなる。そして免疫力が弱くなるので風邪などにかかりやすくなってしまう。 それは聖者にも共通している。違うのは聖女が太陽を中心に影響を受けるのに対し、聖者は月を中心に影響を受ける。一部地域で白夜と呼ばれる現象が観測される夏の一時期、月食、そして新月の日。 「今日は新月の日じゃないか?」 「えーと、そうですね。そうなっています」 ユーリがカレンダーを確認してくれる。 「新月の日、月食、白夜が観測される時期は、免疫力が弱くなって風邪などにかかりやすくなるんだ。へくちっ。このところ平和だったから、ついつい気が緩んでて」 ―――忘れてた。 「だが、今までの新月の日は、平気だっただろう?」 「うん、滋養強壮にいい食材をとったり、アイルたんにあっためてもらったり」 「ティル、ティルはいつもそうかわいいことばかり言う」 そう言ってアイルたんが頬ずりしてくれる。はわわ~、アイルた~ん!アイルたんに抱っこされながらの頬ずりもなかなかいいものですなぁ。 「ですが、小さくもなるものなのですか?」 「うっ」 クロードの指摘についつい、言葉が詰まる。 「いや、普通はちったくはならないよ」 いや、むしろ初めて。 「考えられる原因としては、その、ルークかなぁ」 「ルークさんですか?」 ユーリがきょとんとしている。 「う、うん。何と言うか。ルークの調子が悪いと、関節痛と熱のダブルコンボ喰らったり、腹痛と頭痛のダブルアタック喰らったりするからさ」 「あの男が、何故関係する」 ルークが関係すると知り、嫉妬心を燃やすアイルたん。そんなアイルたんも尊し。 「えっとー、その」 どうしよう。アイルたんは薄々ルークの正体は知っていると、思う。テゾーロ神聖国での一件があったからな。でも他のみんなもいるし、そこをどう説明するかが問題だ。 何たってあれは、異教の神だから。 「俺は聖魔法しか使えないから。他の身体強化などの面についてはルークも一役買ってるんだ。だから聖者の力が弱くなる日はルークの力を借りる必要があるんだ」 ―――いつかは本当のことを話したいとは思うのだけど。それにはルークの助言がいるだろう。確実に。 「俺では、ダメなのか」 あ、アイルたん!そんな悲し気な表情をしないで! 「あの、アイルたんの力も借りてるから!精神面で!あとぎゅーしてくれるから!」 何か理由が支離滅裂になっていく気もするのだが。 「うむ、では俺と一緒なら平気と言うことだな」 アイルたんが俺のふにふにほっぺをつんつんしながら、満足そうに頷く。 「うん、まぁそうだけど。仕事は」 「本日は我々にお任せください。そちらのお姿はいつまで?」 と、クロード。 「ん~、多分、明日になれば自動回復機能が復旧するはずだから今日だけだと思う。いつも朝陽が昇るくらいから回復するから」 「でしたら、緊急性のあるものだけ、目を通していただくくらいに調整いたします」 「わぁ、ありがとう、クロード!ユーリもお願いね」 「はい、お任せください」 優秀な侍従長と副官がいて助かったぁ~。 「それで、ルーク殿はどうしましょう?調子が悪いと言うことですよね。様子を見に行った方が」 と、クロード。 「あぁ、多分おいしいものたくさん食べれば復活するから」 以前、俺がダブルコンボやアタックを喰らったのは、たまたまルークがまず過ぎるものに当たった時だった気がする。あれは失敗だったわぁー。ついつい、運の悪い日に当たったのである。 「なら、城下でいろいろ仕入れてくる」 そう、メイリンが頷く。 「ふたりのご飯も買ってくるから、ラティラさまは私たちの食事は気にしないで」 「わぁ、ありがとう。メイリン。任せた」 「ん、今動ける影総出で動く」 いや、そこまでせんでも。でも何だかみんなの心遣いが嬉しい。早くルークの不調も治るといいなぁ。 「それじゃぁ、ティル。行こうか」 「へ?どこに?」 「どこって、執務室だ」 あ、アイルたんの執務室―――っ!?えっと、こんな幼児姿でお邪魔していいのだろうか。

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