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第52話 戦慄の襲撃
―――どうも、グラディウス帝国皇后ラティラです。引き続き、5歳児姿の俺はアイルたんのお膝の上に大人しく座っております。アイルたんのお膝の上は気持ちよくて心地よい。もへ~。
「あ、この書類は皇后陛下も目を通してください」
そう和んでいれば、そう言って宰相が書類を見せてくる。
「一緒に見ようか、ティル」
そう言ってアイルたんが俺の頭をなでなでしてくれる。
「うん、アイルたん」
何だかこういうのもいいなぁ。アイルたんのお膝の上に座りながら、デスクにすちゃっと両手を乗っけて資料を読んでいく。
「ん、ティルかわいい。頑張って文字を追っているところが特に愛らしい」
アイルたんが俺の頭の上に顎を乗っけてきた。
「アイルたん、ちゃんと読まないと」
「ん、もう読んだ」
マジで!!?早っ!!俺も少しは早く読めるはずなんだけど!さすが皇帝陛下はすげぇ。俺はアイルたんに目一杯スキンシップをされながら資料に目を通す。
ほっぺふにふに。
アイルたんは俺のほっぺも気に入ったらしい。
―――続いてはアイルたんが宰相とあれこれ会話している。その他もろもろの打ち合わせなどらしい。俺にはあまり関連のない話だったのでアイルたんのお膝の上で暇をしていた。足をパタパタさせてみる。何だか童心に返った気分。いや、姿は幼児に返っているけれど。しかし、不意に宰相が立っている側とは反対側から視線を感じた。ゾクリと言う悪寒と共に。
「じー……」
びっくぅっ!!?
恐る恐る顔を向ければ、最初に金茶色の髪がぐわっと視界に入ってきて、その前髪の下から大きくくわっと見開かれる赤い瞳。アイルたんと同じ目の色なのだが、その目は白目部分が血走っており、目の下のクマがすっげぇ恐い。
ひえええぇぇぇっっ!!ブラッコンラートォッ!!!い、いつの間に!?びくびくっ。
「へぇ~。噂が聴こえてきたので念のため確認に来ましたがぁ~。本日は何のプレイですかねぇ~?そうやって兄上を誘惑する作戦ですかぁ~?ふふふふふ~、さすがは魔性の皇后陛下ぁ~。鮮やかな手際ですねぇ~」
びくびくびくぅっ!!
何故だろう。草食動物黒ウサちゃんだからか、この肉食生物に本能で恐怖を感じる。いや、肉食だなんて生ぬるい。暴食ブラコン狂生物だ!!
―――てか、俺はいつどこで魔性なんて振りまいたよ!確かにイケメン王子だけども、ご令嬢方や各国の王女たちからもモテたけどそんなことした覚えないわぁっ!!俺よりもアイルたんの方が妖艶だし!むしろ俺はアイルたんの妖艶さに取り込まれて翻弄される側だと思っている。
すりっ、もぞっ
俺は無言でアイルたんの胸元に顔をうずめた。すーはーすーはー。すんすん。あぁ、アイルたんいい匂いがするぅ~。この匂い安心するなぁ~。ア~イルたぁ~んっ!
はぁ、そろそろブラコンラートどっか行ったかな。
―――ちらりっ。
くわわわわわっっ!!!
「ふひひひっ」
先ほどよりももっと至近距離―――目と鼻の先で怪し気にほくそ笑む恐怖のブラコンラートを俺は間近で喰らってしまった。
ぎゃああぁぁぁぁぁぁ――――――っっ!!!
恐怖で、声が出なかった。
ガクブルッッ!!
「なぁんで顔を逸らすのかなぁ~?悪い子だなぁ~悪い子ですねぇ~?」
ヒイイイィィィッッ!!!
ど、どうしよう。こ、恐いよアイルたぁん、アイルたああぁぁぁんっっ!!!
そんな俺の必死の心の叫びが届いたのか、不意に俺の視界がアイルたんの腕に包まれる。気が付けばアイルたんにぎゅむーされており、ウサ耳をひょいっと揺らしながらアイルたんを見上げれば。
「ん、ティル」
アイルたんが優しい表情で見降ろしてくれた。宰相との話が終わったらしい。
ぞぞぞっっ
ひええぇぇぇっっ!!!アイルたんの背景 にブラッコンラートォッ!!
「こら、コンラート」
「……兄上?」
因みに、アイルたんに名前を呼ばれたコンラートはこれ見よがしにぱああぁぁっと顔を輝かせる。
「ティルと話し過ぎ、そして見つめ過ぎだ」
むっと眉を顰めるアイルたんの嫉妬がかわいい。
「あはっ、気のせいですよ!それじゃ、ぼくはお仕事戻りますねぇ~」
ふんふんふ~んっ♪と、上機嫌でスキップをしながらブラコンラートは去っていく。うぐおおおあああぁぁぁぁっっ!!態度変わり過ぎだろぉぉぉッッ!!
あと、弟萌えで言えばウチの弟のゼンの方がかわいいから!弟萌えマックスだから調子に乗んなよブラッコンラートォッ!!
「ティル」
「アイルたん?」
再び、アイルたんが俺を呼ぶ。
ヤキモチ妬いちゃったのバレちゃったかな?なぁんて。
「コンラートと見つめ合っていた時間、見つめ合おうか」
「うんっっ」
嬉しい!これでコンラートショックで負ったガクブル値をを浄化できるぅっ!!
「もうすぐ昼ご飯だな」
「うん、お昼は宮で食べる?」
「あぁ、そうしようか」
そう、アイルたんが俺を思う存分見つめて頷けば、宰相に昼休憩に入ることを伝え、俺は再びアイルたんに抱っこされながら後宮に運ばれる。
その間も視線を感じちゃうので、ぎゅっとアイルたんの胸に顔をうずめれば。
あぁ、アイルたんの匂い。すーはーすーはー。
―――俺、変態化してないよね!?
「ティル」
「あ、アイルたん?」
「今日はたくさんくんくんしてくれるな」
バレてたぁっ!!
「俺も、ティルの匂いは好きだぞ」
「りょ、両思いだね!」
「うむ、嬉しい」
アイルたんを見つめてなでなでされながら、俺は素晴らしい道中を謳歌した。
さて、お昼のレンチンご飯は何かなぁ~♪
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