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第54話 今夜の寝巻コレクション

「ん~~~っ!やっぱり元の体の方がしっくりくる!」 ―――夕方、予想通りにもとの姿に戻った俺は、寝室にいた。 戻るにあたっては予兆があった。ルークから脳内通信があったのだ。 ―そろそろ元に戻るぞ。あ、その服のままだと服をぶち破ってでかくなるから真っ裸だな、ぶぷっ(笑)― ―――と。まるで悪魔のような所業である。主に最後の(笑)の部分っ!! そこで俺は必死にアイルたんの胸元をぽふぽふし、元に戻ることを伝えた。運悪く、ブラコンラートがアイルたんと打ち合わせを行っており、射殺すような目を向けられて俺、へくちっ連発してしまった。 ぐすん。 でもすぐにアイルたんがなでなでぎゅーしてくれた。アイルたん、やっぱり最高の旦那さま。 こうして、いつもよりもちょっと早く上がった皇帝陛下は後宮の俺の寝室に直行し、黒ウサコスを脱がされ、いつものガウンを羽織らされた。 そして、時は来た! 俺は、元の大きさに戻った。 「へくちっ」 やっぱり風邪気味なのは治ってない。 「ティル。小さな姿のティルもかわいかったが、いつものティルもかわいいな」 そう言って、アイルたんがその腕の中に俺の身体を受け止めてくれた。ちったい時もずっとアイルたんにぎゅむーされていた俺だが、元の大きさに戻ってぎゅーされた方が一番落ち着くなぁ。 「お仕事中断させちゃってごめんね、アイルたん。俺、お留守番しているから」 「いや、今日はもう終わりだ」 「けど、本当にいいの?」 「今日の分は後はヒューイに任せた。緊急の案件がない限りは呼ばれん」 「そ、そう?」 ブラコンラートについても大丈夫かな。うん、大丈夫だよね。俺たちみんなの頼れる宰相さんがいるからねっ! 「あぁ。夕飯はこちらに運ばせよう」 「わかった」 アイルたんが優しく頭をなでなでしてくれる。 「さて、元に戻ったことだし」 アイルたんがごそごそと何かを出してくる。何だろう? 「これを、クロードから預かっている」 アイルたんが取り出してきたのは、黒いもこもこ生地だった。 「これは?」 「風邪の時は温かくした方がいいそうだ」 うん、それはそうかも。おっきくなる時に便利なのでガウンを羽織っているだけで、今日はしっかり温かい寝巻を着た方がいいだろう。確かに温かそう。俺がアイルたんから受け取ってぺろーんと広げれば。 黒ウサ着ぐるみパジャマ―――ッッ!!! いや、ちったい見た目の時は百歩譲って我慢したけども。着せられるがままに身を委ねたけども。せっかく元の大きさに戻ったのだから…… 「普通の寝巻でいいんだけど」 いつもの寝巻をクロードに頼まなきゃ。 「着て、くれないのか?」 しゅーん。 ぐはっ。 そんなしゅーんとしないでアイルたん!そんな顔されたら断れるはずないじゃんっっ!! いつもかっこよくて優しい旦那さまのたまに見せるしゅーんとしたかわいい表情。ギャップ萌え過多っっ!! そんな胸キュンイベントに俺が耐えられるはずもなく。 「わ、わかった。―――着る」 「うむっ!!」 俺が苦渋の決断を下せば、アイルたんがぱああぁぁっと顔を輝かせる。 わぁっ、眼福やわぁ~~~。俺、それだけで生きていける。 「では、着せてやろう。着せ方ならばしっかりと予習してきた」 え、執務の合間にいつの間に予習してたの!?そりゃぁ、俺結構寝入っていたけれど。その隙に打ち合わせしてたの!?どこで調達したのか、クロードが用意してきた着ぐるみパジャマについてもいつの間に受け取ったの? 後宮の仕事をこなしながらも黒ウサ着ぐるみパジャマまで調達するなんて!クロードの優秀さに改めて感謝の意を示しつつ、これでいいのかと心の中で一応ツッコんでおく。 そうしてアイルたんにガウンをするりと脱がされる。肌触りのいいガウンは、アイルたんの指が俺の肌を滑らせるように動かせば、するりと脱げてしまう。 そして黒ウサ着ぐるみパジャマをアイルたんに着せられて、チャームポイントの黒ウサ耳と赤いお目目ボタンがついたフードをすちゃっと被らされれれば。 「んっ、俺のティル」 アイルたんに再びぎゅむーっと抱擁される。うん、アイルたんの腕の中はやはりえぇのう。何だかおっきいぬいぐるみになった気分だが。 「本当は、むしゃぶり尽くしたいが」 ぎくっ。 「ティルの風邪が悪化しないよう、ふんだんに愛でるからな」 そう言って、アイルたんが頬に吸い付いてくる。 「ひあぁっ」 「ん、ティルの頬は、やはりいつも柔らかくて溶けてしまいそうだ」 「いや、さすがに幼児姿の方が」 「変わらないものもあるのだな」 ふにふに。 ―――今回の俺幼児化に伴い、アイルたんはまた新たに俺のお気に入りポイントを見つけたらしい。ふにふにしてくれる。俺の頬、そんなに気に入った? ふにっ お返しにアイルたんの頬をふにっとしてやった。 「ふふっ、俺の頬も好きか?」 「そりゃぁ、まぁ」 てか、アイルたん!最近はすっかり力の代償で肌を蝕んでいた黒い影も薄まっており、最近はほぼ成りを潜めている。ルークが近くにいるからその恩恵を少なからず受けているのかもしれないが。アイルたんの肌はみずみずしくぷるんぷるんしているぞ。 ―――あ、そういや毎日のように俺の聖魔力を夜も、食事でも吸収しているのだった。 肌がうるつやになるのも納得がいく。 「えへへ、触り心地いいな。アイルたん」 「ティルもだ」 何か、お互いにお互いのほっぺをふにふにしている。何だこのハズいシチュエーション。そしてこの謎イベントは、クロードが冷食化した具沢山鍋焼きうどんを持ってきてくれるまで続いた。 あと、クロードにそれ見られてめっちゃ恥ずかしかったが、何だか温かい目で見られてしまった。 ――― 「ティル、今夜は俺が、たくさん温めて、愛撫するから」 こうして、今夜は挿れないものの、身体を温めると言うことでアイルたんにぎゅーされ(いや、これいつも通りじゃん)、更には肌があらわになっている頬や首筋に甘い口づけを贈られながら、目一杯かわいがられて眠りについた。 うん、多分聖魔力以外の何かも全快した気がするー。 そう、言うならば、“アイルたんポイント!” 俺のアイルたんポイントもしっかりと全快し、むしろ天井突破した気がする。 んにゃぁ、アイルた~ん。 因みに、夢の中でもアイルたん尽くめであった。

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