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第57話 チャリティー

―――カタカタカタ。 ―――カタカタカタカタ。 「あの、ラティラさま。そちらは一体?」 何事もふんわりと微笑んで応じるクロードが何故か唖然としていた。 「ん~、俺一応聖者だから。チャリティー活動やろうと思って」 「チャリティーですか。どちらへ?」 「えっと、帝国城内全体でやっているんだけど、俺の担当はアイルたんの執務室と行政部かな」 「帝国城内全体とは初耳なのですが」 「アイルたんにご馳走するお節料理の研究のために城の厨房をはしごして研究してたら、何か、盛り上がっちゃって。みんなでやろうってことになったんだ。 ―――“移動式お汁粉屋台”を!!」 「おしるこ、ですか?」 「ほら、クロードも食べて」 俺は早速お汁粉をよそってクロードに差し出す。丸いお餅と南瓜入りの特製お汁粉だ。 「すごい……色をしていますね」 「カレーよりちょっと濃いだけじゃない?」 「カレーのスパイス感は全くないですね」 「原材料が豆だからね。ほら、コーヒー豆とかもこんな感じじゃん」 「まぁ、確かにそうですね」 そう納得したようなクロードは、早速お汁粉に口を付ける。 「―――これはっ」 「どう?」 「……甘くておいしいですね。お餅との相性もいいですし、南瓜もおいしいです」 「でしょ?いいチャリティーでしょ」 「えぇ、まぁ」 クロードが苦笑しながらも頷いてくれる。 そして、暫くすると女性用後宮から女性騎士たちがやってくる。 「皇后陛下!ただいま参上しました!」 女性騎士たちが騎士の礼をとってくれたので、早速例のものを引き渡す。 「それじゃぁ、重たいから気を付けて運んでね」 「はい、もちろんです」 「こちらが“お汁粉”なるスイーツですか。楽しみですね」 そう言って、俺が底の深い鍋でこしらえた特製お汁粉を女性騎士たちに引き渡す。 「女性陣でおいしく食べてね」 そう伝えれば、彼女たちも興味津々な様子で頷く。 「皇后陛下のスイーツ、楽しみです」 「ふふ、候補の令嬢たちも、女官たちも、みんな楽しみにしていたんです」 そう、和やかに会話しつつも、お汁粉を運んでいく女性騎士たちを見送った。 「さて、残りも配りに行かないと」 「ご一緒しますよ」 「ありがとう」 そう、クロードと会話していれば、他のメンバーもやってきた。 ユーリ、ルーク、メイリンである。 「わ、クロードさん。それなんですか?」 ユーリが驚いたようにクロードが持っているお椀の中を見やる。 「皇后陛下お手製のスイーツだそうです」 「あれはさすがにボクも知らないなぁ。ルークは?」 メイリンがルークを見上げる。 「いや、初めてだな。お前そんなのどこで知ったんだ?」 「えっと、い、インスピレーション?」 そう、ルークに適当に答えれば。 「お前にインスピレーションなんて湧くのか?」 「むきー、お汁粉やらないぞっ!」 「それとこれとは別だ。寄越せ」 「む~~~っ!」 口を尖らせつつも、ルークとメイリン、ユーリにもお汁粉をご馳走する。 「わぁ、意外と甘くておいしいですね」 「お餅まいう~」 「ん、なかなかいいじゃないか」 3人は最初はドキドキしていたものの、クロードが平然と食しているので順次口を付けていく。やはりクロードはめっちゃ頼りになるなぁ、こんな時にまで。 「これから皇后陛下がチャリティーに行かれるそうなので、私も同行しようと思いまして」 「チャリティーですか?」 「うん、アイルたんの執務室と行政部に」 「あぁ、本命は皇帝陛下への愛夫(あいさい)スイーツですか」 「えへへ、バレた?」 ユーリがそう苦笑し、俺も照れながらも頷く。 「サプライズチャリティーしようと思って」 「おやおや。皇帝陛下もきっと喜ばれますね」 クロードが優しく微笑んでくれる。 「みんなも来る?」 「面白そうなのでご一緒します」 「ん、まぁお代わりも欲しいしな」 みんなも来てくれたら楽しくなりそう。ルークの食い意地は別として。 こうして、男性用後宮メンツでチャリティー屋台に出発した。 「屋台と言えば、歌とかメロディーを流すのが定番なんだよ」 「例えばどんなものですか?」 よくぞ聞いてくれた、ユーリよ。俺作詞作曲、渾身の屋台メロディーを奏でてくれよう! 「アッイルたん~、アッイルたん~、アッイルたんったらアイルったん~♪―――どう?」 「皇帝陛下愛をふんだんに感じますね」 「でしょ?」 「アホ丸出しだろうが」 「ルーク!おかわりに栗入れてあげない!」 「んなっ、栗入りもあるのか!?お代わりっ!」 「んむ~っ」 何だか納得できないが、お代わりの栗入りをくれてやる。 「ラティラさま、もうすぐ陛下の執務室ですよ」 「わぁ~い。アッイルたん~アッイルたん~♪」 俺がそう歌いながらメイリンと屋台をカタカタと押していれば。当然のことながらアイルたんの執務室の前には近衛騎士たちが立っていた。 「―――皇后陛下?」 彼らも驚いているようだ。 「良かったら食べてく?」 「いえ、勤務中ですので」 「それは残念。多分騎士舎の厨房でも料理人たちが配るって言ってたから後で食べてね」 「はい、是非」 「因みにこれです」 ユーリが中身を見せれば、騎士たちにものっそい目を見開いて見つめられた。 「あの、何ですか。これ」 「お汁粉。アイルたんにご馳走するんだっ」 「え……えぇ~と」 何故か近衛騎士たちが微妙な表情をしている。全く~、お汁粉美味しいのになぁ。 「我々も食べて平気ですから」 そう、クロードが告げれば。“まぁ、皇后陛下だからな”と許可が出て、中へ通してくれた。 ……でも、何なんだろう。さっきの言葉に何だかあきらめのようなものを感じた気がするのだが。―――ここは。 「アイルたあぁ~んっ!お汁粉屋台が来たよ~っ!」 皇帝陛下の執務室に堂々と乗り込めば。 「あ、申し訳ございません皇后陛下。皇帝陛下は現在お手洗いに」 そう、執務室に残っていたアイルたんの秘書官が告げてきた。 「ひぇ―――っ!?」 何かめっちゃ恥ずかしぃ~~~っ!!!

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