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第58話 お汁粉、いかがですか?
―――グラディウス帝国城・皇帝陛下の執務室。
俺はまさかのアイルたんが席を外しているタイミングでサプライズを仕掛けてしまった。は、恥ずかしい。でもこういう時は。
「お汁粉、いかがですか?」
俺は何事もなかったかのようにアイルたんの秘書官にお汁粉の入ったお椀を差し出す。
「さすがです皇后陛下」
「完璧なチャリティー時の聖者の顔ですね」
と、クロードとユーリ。
ふ……っ。これでも俺は、プロだからな!
「あぁ言うの見たことあるよ。失敗して恥ずかしい時に無理矢理取り繕ってるラティラさま」
「あぁ。あぁいう時はデリケートだからな。あぁいうタイミングでトドメの一撃を打ち込むと玉砕する」
そこの古参のふたり!メイリン、ルーク!よくわかってるよ、本当によくわかってるよ自分たちの主人のことを!だったらせめてフォローしてくんない?あと、ルークは確実にトドメの一撃を決めようとしやがる。もう、俺誰も信じられなくなりそう!
うわああぁぁぁんっっ!アイルたああぁぁぁんっっ!!
「ほらほら、ラティラさま。ラティラさまの分もよそいましたからどうぞ」
そう言って、栗を入れたお汁粉をユーリが椀によそって差し出してくれる。
「ゆ、ユーリ!」
本当に、ユーリって面倒見いいなぁ。13人兄弟の末っ子なのにお兄ちゃんみたいー。あぁ、いい秘書官を持てて俺幸せ。
お汁粉もひー。
※お汁粉のお餅を伸ばしているBGM
「まぁ、こちらにも報告は届いておりましたが。本当にこのようなものを配る奇行をされていたのですね。皇后陛下」
ぐはっ。
「え、奇行って何?」
人聞きが悪いよアイルたんの秘書官。
「城内の料理人と結託して、このような代物を城中で配り歩いているとの報告を受けております」
「え、お汁粉だよ?美味しいよ?チャリティーだよ?」
「えぇ、料理人たちも皇后陛下主催のチャリティーだと主張しているそうですが」
そう言って秘書官は、小豆汁の底に沈んでいたお餅を恐る恐る箸で掬(すく)い上げた。
「初めて見た時は俺もびっくりしましたけど、小豆とお餅を使ったおいしいスイーツですよ。“兄さん”」
「え?あぁ、この色は小豆か、ユーリ」
―――んん?
「あの、ユーリ。そちらの秘書官とは一体どういう関係なんだ?」
今、ユーリがアイルたんの秘書官を“兄さん”と呼ばなかったか。
「えぇ。俺も最近知ったんですが、1番上の兄さんが皇帝陛下の秘書官をしておりまして」
えええぇぇぇっっ!?俺も初耳!
でも、待てよ?
そう言えばこの秘書官、年齢はユーリと結構離れているようだけど、髪はダークブラウンで瞳はヘーゼルブラウン。顔立ちも髪と目の色も何となく似てるぅっ!?
「いやぁ、なんせ会ったことも数回?顔もまともに覚えていなかったので気が付かなかったんですよ」
「ははは、私は息子の顔にお前が似ていたからもしやと思って調べたんだ。宮仕えをしていると言うのを風の噂で聞いたけどな。前は経理にいたとは。会いに行けば良かったな」
「えぇ。あの頃は平民出の下っ端だったので、陛下付きの秘書官と顔を合わせるなんてありえなかったのでまさか兄さんがいるとも思わず。兄さんは宰相閣下のスカウトで現在の地位にいるそうですよ」
わぁ、さすがは宰相。カヒリ(※ユーリの苗字)兄弟を揃ってスカウトしていたとは。てか、ユーリの兄弟って優秀なの!?兄弟みんな優秀な人材の宝庫なのかな!?今のところユーリの13人兄弟コレクションは2人しか登録できていないけど!あとはちびっ子コスを贈った先のお姉さんのことしか知らない!
「いや、でも顔、知らなかったのか?」
「えぇ、何せ父子 ほどの年齢差がありますからね。俺が物心ついた頃には既に独り立ちしてましたし。実家に送金してくれてたので名前は聞いたことがありましたけど、親戚の叔父さんか誰かだと思ってました」
「いやぁ、参った参った」
マジかよカヒリ兄弟!次元が違う!
「でも、兄弟再会できて良かったね」
「えぇ。縁とは意外なところにあるものですね!」
そう笑顔で微笑んだユーリは、父子ほどの歳の差のあるお兄さんと和やかにお汁粉を食べていた。うん、よく見たら父子に見えなくもない!
―――そして。
「ティル!」
その声に、俺はハッとして振り返った。
「ティル!会いに来てくれたのか」
嬉しそうな表情を浮かべて、ガバッと俺に抱き着いて来てくれたアイルたん。はわわ、アイルたんの匂い落ち着くー。くんかくんか。
「ははは、両陛下は本当に仲がよろしいな」
「はい、後宮でもラブラブなんですよ、兄さん」
ちょっとユーリったら。それは真実だけども照れるよ~。
「ティル、今日はどうしたのだ。それに、それは?」
アイルたんが俺が持ってきた移動式お汁粉屋台に目を向ける。
「うん、お汁粉をアイルたんに食べてもらおうと思って」
俺はお汁粉をお椀によそい、栗、南瓜をトッピングしてアイルたんに差し出した。
「これは……食い物、なのか?」
何故みんなその反応~~~っ!
「味見させていただきましたが、甘くてとてもおいしいですよ。陛下」
そこでユーリのお兄さんでもある秘書官がアイルたんにそう教えてくれる。
「んなっ!貴様、俺よりも先にティルのお汁粉を食べたのか!?」
驚愕するアイルたん。そして嫉妬するアイルたんがかわゆす。
「皇后陛下に食べさせてもらうのは、陛下が一番最初ですよ。ほら、文句言わない!」
「―――そうか、食べさせてもらうのは、俺が最初か!」
ぱああぁぁぁっとアイルたんの表情が明るくなる。
さすがはアイルたんの秘書官!アイルたんの扱いにたけている!!
「ユーリもな」
ぎくっ。後ろからルークにぴしゃりと言われ、むーっと口を尖らせつつもそうかもしれないと思う俺。やはり秘書官は偉大である。
「それじゃ、俺がアイルたんにあーんしてあげるね。ほら、お餅あ~ん」
俺はお箸でお餅を伸ばしながらアイルたんの口元に運ぶ。
「はむっ、んん、餅と、これはあんこか。旨いな」
さすがはアイルたん。俺のお菓子シリーズも食べ慣れているアイルたんにはすぐにわかったらしい。
「どう?おいし?」
「あぁ、もちろんだ。このままティルごと食べてしまいたいくらいに旨い」
ぐはっ。アイルたんったら、んもぅ。
そんな感じで照れていれば。
「兄上に、何食わせてんですかぁ~?」
ヒイイイィィィッッ!!!
アイルたんの背後に目を見開いて白目が血走っているブラコンラートが現れ、恐怖で頬をひきつらせたものの、ユーリによそってもらったお汁粉を秘書官がコンラートにも差し出していた。コンラートは渋々お汁粉に口をつけ、「まぁ、今回は大目に見ます」とのお許しをいただいた。
―――やはり、秘書官とお汁粉は偉大である。
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