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第59話 突撃、お汁粉屋台!

さぁ~て、お次の目的地は行政部だ~! 俺たち後宮メンツはアイルたんと秘書官(ユーリのお兄さん)を連れてお汁粉屋台をカタカタと移動していく。 宰相がいるとみられる行政部に近づいて行けば、そこから宰相と補佐官と見られる青年の声がしてきた。 『とにかく、すぐに確認に行くぞ!』 『はい、閣下』 『何が何でもあの皇后をひっとらえる!』 「ひえぇっ!?何で俺!?」 驚いてアイルたんを見やれば。むぎゅっと抱きしめられた。 「大丈夫だ、ティルは俺が守る」 「アイルたんっ!」 んもぅ、大好き!あ、でも何で俺ひっとらえられるの? 「……俺、何かしたっけ」 「……」 何か、ユーリのお兄さんからの生温かい視線が突き刺さる。生温かいのにね、突き刺さるんだよ。例えるのならば、南瓜を食べている時に南瓜の皮が思いのほか硬くて口のナカを攻撃してきたような感じ。 「兄さん、ここがラティラさまのいいところなんですよ」 「あぁ、なるほど」 いや、なるほどって何かなカヒリ兄弟。 「よし!宰相が俺を探しているのなら、自ら行ってやろうじゃないか、わははははは」 そう、お汁粉屋台で強襲をかけようとしていたのだが。 「えぇ、はい。皇后陛下がお見えです。今お邪魔してもよろしいでしょうか」 『えっ!?はい、もちろんです!』 クロードがごく普通に補佐官と思われる男性とやり取りをしていた。 「皇后陛下はよく今までご無事で生きてこられましたね」 「ほんと、ラティラさまには謎のチートついてたと思うし。例の裁判の前辺りまでだけど」 「ぶぷっ」 ユーリのお兄さんの言葉に、メイリンの確信をついたひと言。うん、確かにあの頃はざまぁされキャラ補正が付いてたからね。断罪裁判前までは破滅しなかったんだよ。あくまでも普通に優秀な王子だったけども破滅はしなかったんだよ。 ―――あ、てことは今は? おのれ、しかも笑いやがったなルークめ。いつの間にかお汁粉お代わりしてるしっ!! 「ティルには俺がいるから、今は平気だ」 そう言って、アイルたんが俺の頬に口づけを落としてくれる。ふあぁっ、やっぱり俺にはアイルたんしかいないよぉ~。 「さすがは皇帝陛下ですね」 何だか和やかな雰囲気。この感じなら、きっと宰相とも仲良くお汁粉食べられそうだなぁ~。 ――― そう、思った俺が甘かった。 「本当に、アンタ何やってんですか」 ぎく―――っ! 宰相のそのディスリ視線がどっかの誰かさんと被るわぁっ!ほら、今横でお汁粉食べてるやつとね。 「えっと、お汁粉屋台」 「―――料理人たちと結託して城内で妙なものを配り歩いていると言うのは本当だったようですね」 宰相の目がギラリと光る。 「わぁ、本当に泥のような色をしているんですねぇ」 「甘くておいしいですよ?補佐官殿もいかがですか?」 俺がアイルたんと並んで宰相の前で反省させられている一方で、補佐官は秘書官と一緒にお汁粉を見学していた。 「はい、補佐官殿もどうぞ」 そう言って、ユーリがふたりにもお汁粉をよそってあげていた。 「いや、お汁粉だって。おいしいから」 「そうだ。ティルの手作りなのだから、俺が独占したいが。ティルがチャリティーで配りたいと言うから、ティルからのあ~んは俺限定と言うことで妥協したのだ」 「アイルたんったらっ」 相変わらず嫉妬してくれるのがかわいいっ! 「いや、陛下はいいんで。とにかくアンタ何でこんなことおっぱじめたんですか。ウチは何も聞いていませんが」 「サプライズチャリティーだもの」 「城の中でやるのなら、サプライズでもなんでも一度は私に報告してください」 「え、でも、毎年やってるって聞いたよ。いつもは式典ラッシュお疲れさま~ってことで厨房で焼き菓子を配っているって聞いたんだけど、寒い季節だから体があったまるように、今年はお汁粉にしようってなったんだよ。ほら、宰相も」 俺はユーリがよそってくれた椀を宰相に差し出す。 「いや、確かにそのもよおしは彼らが好きでやっているのは知っているが。これは本当に食い(もん)なのか……?」 宰相がお汁粉の中からお餅をみょいーんと出すと、普通の餅だと判断したのか恐る恐る口につける。 「んむっ、おいひぃですね~。宰相閣下~。温かいですし、こういう寒い日はいいかもしれません」 あ、補佐官も満足気である。 「ん、まぁ、旨いが」 宰相ったら、頬が赤いぞっ!本当はお汁粉気に入ったな?んも~。 そう、アイルたんと腕を組んで喜んでいれば。 「ですが」 「ん?」 宰相の目が再びギラっと光る。 「アンタが関わると必ず面倒なことや突拍子もない方向に飛ぶので、必ず私に事前報告するようにっ!」 「ひえぇっ!?」 びっくーっとする俺。そうだったっけ? 「いや、でも結局は帝国の利益にもなってますがね。カレーとか冷食、あとフリーズドライですか?」 と、補佐官。 ほら!俺帝国の、アイルたんのお役にも立ってるじゃんっ! 「そう言うことを言うと調子に乗るからやめておけ」 ぐはっ。 「ん、ティルは俺が甘やかすからいいんだ」 そう言ってなでなでしながら慰めてくれるアイルたん。マジ尊し。俺はそっとアイルたんの肩に頭を委ねた。 「宰相、お代わりいる?」 メイリンにお代わりのお椀を差し出され、素直に食べるあたり、お汁粉自体は気に入ったらしい。

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