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第61話 新たな懸念

えぇと、前話では俺の華麗なる暗躍をお届けした次第だが。 「いや、ラティラさまはデスクに座って報告を聞いていただけ。あと、皇帝陛下に愛を囁きまくっていただけ」 と、メイリン。今日も相変わらず魔法水晶をその手に抱えている。 「んもぅ、みなまで言うな。俺はアイルたんがこんなにも好きなのだから!」 あぁ、アイルたん愛してるアイルたん愛してるマジやばたん。まじかわたん。 「ついでに、宰相閣下も一緒に映像を見ていたそうだけど、酷く蔑むような目を向けて立ってたって」 「そんなことで、俺のアイルたん愛を抑えられると思ったら、大間違いだぁっ!」 「それで、今度は何を企んでいるのかめっちゃ気にしてたよ」 「ならば教えてくれようか!早速メイリン、報告を」 「情報の開示にはパスワードが必要。やって」 「え?何それ。まぁいいや。パスワードならこれに決まっているからな。『アイルたんアイルたんアイルたんアイルたんアイルたんアイルたん』」 「3回回って、にゃぁ!」 「にゃぁっ!!」 ―あぁ、俺のアイルたん愛、水晶を通じて届いてるかな?えへへ。― ―――カチッ どうやら、パスワードは無事解除されたようだ。いや、どういう解除方法だ、これ。 さて、次のフラグはと言うと。グラディウス帝国のとある属国の王子である。もちろんこの属国の情報についても収集済みである。 グラディウス帝国内でも鍛冶製鉄などで有名な火山国家・ジャラムキ王国。火山国家と言っても温泉は余り有名ではなく、火の魔法の加護に恵まれた国である。かの国は大陸全土で祀られる女神を筆頭にして、その従神である火の神も共に祀っている。火の神は異教の神ではなく、あくまでも女神に追随する神とされているため、帝国もそのジャラムキ王国の火の神信仰を赦している。更にそのおかげで火の魔法に恵まれた国なのである。 そう言えば、以前北方の属国であるヴィンデル王国のツェツィの話をしたと思うが、彼女の国には氷魔法の使い手が多い。こちらは氷の妖精の加護に恵まれている。こちらは神ではない。 俺が思うに、氷に関係する神ならば、女神の属性と相容れないからこそ、ヴィンデル王国では神ではなく妖精として大切にしているのではないかと。 事の真相は不明である。ルークに聞いてみたところ、筋は悪くないと言われた。―――あながち間違っていないけど、ルークの知っている真相には少し及ばないってこと? まぁ、それはともかく。 この二つの国は切っても切れない関係だ。寒い土地であるが故に火の魔法が必要不可欠なヴィンデル王国。そして、暑いが故に氷魔法が必要不可欠なジャラムキ王国。 この二つの国は、ぶっちゃけ言って仲が悪い。 同じグラディウス帝国の属国だからこそ大人しくしているのだ。 そのそもそもの発端と言うのが、ジャラムキ王国が氷魔法使いを求めるが故にヴィンデル王国に侵略したからである。その二つの国の間にはまだまだ国があるのだが、破竹の勢いで侵略してきたジャラムキ王国に多くの国が滅ぼされ、そしてヴィンデル王国に迫った。 そんな中、ヴィンデル王国はとっととグラディウス帝国の属国に自ら売り込み、帝国に対して自国の温泉から得られる恵みや類まれなる氷魔法の技術を提供した。こうして、グラディウス帝国の属国になったヴィンデル王国に宣戦布告してしまったジャラムキ王国は、征服した数多の国と一緒に帝国によって征服されてしまった。 そう言う背景があるため、ヴィンデル王国は帝国の中でも立場は上、そして憐れにも帝国の属国に手を出し服従させられたジャラムキ王国の立場は底辺であった。火の神の恩恵を受けると言われても、だからと言って力を付けさせれば反逆するかもしれないとされ、未だ帝国からの信用を取り付けられない。 更に、皇帝アイル陛下即位にあたり、多くの属国の姫が妃候補として後宮に召し上げられたのだが、ヴィンデル王国の王女ツェツィは真っ先に候補入りが認められたのだが、ジャラムキ王国の王女は候補の時点で予選落ちしてしまったのである。 「因みに、理由は?」 「んーとね。多分国家機密関連」 なるほど。女神と対極の力をその身に宿すアイルたんにとって、女神の従神火の神の加護を色濃く受けているだろう王族はあまり得意ではないと言うことか。 「あと、個人的に嫌だって」 「あぁー、何となくそれわかるー」 俺も、その王女には会ったことがある。当時は元婚約者であったラピスと一緒に王女と王子の接待をしたことがある。何故かラピスにいちいち触れようとする王子、俺にベタベタ触れようとする王女。俺とラピスは聖者と聖女。それぞれ違う神の神子であるが、だからと言って相反する存在でもなく当時は義務として一緒にいたわけだが、今では義兄妹として親しくしている。 それは何故なのか?多分、俺とラピスに加護を授けた神々は、決して仲が良くないわけではないのだと思う。例えばその神子への態度、対応、それが関係しているのではと思われる。ラピスは昔から俺のことを頼りにしていたし、今は共に破滅ルートを乗り越える義兄妹である。だからこそ平気なのだと思う。 対する王女と王子は、神子である俺たちに明らかに嫌がられている。だからこそ相容れない。そしてそんな王女に対し、俺に加護を与えた異教の神と同じ力を持つアイルたんは本能的に拒否したのだ。 「―――そんな感じなのに、そのバカ王子がもしかしたらラピスに手を出すかもしれない」 帝国内の立場向上のために、女神の神子でもある聖女を手に入れようとするのだ。そして、聖女を手にすることでヴィンデル王国を出し抜くつもりなのだ。 「そのことなんだけど」 「何か新着情報があったのか?メイリン」 「実はラピスっちじゃなくて、違う姫に懸想しているらしい」 メイリンがラピスをラピスっちと呼んでいることを初めて知ったが。ラピスは姫ではなく既に妃。俺も妃に手を出すほど馬鹿ではないとは思っていたが、ラピスに手を出せないから、他の姫に目を付けたと言うことか。 「―――その、姫と言うのは」 俺がメイリンに問おうとしたその時、ユーリが執務室にやってきた。 「ラティラさま、女官長から緊急の面会要請が来ました!」 「―――んなっ!?わかった、すぐ対応する!」 何かフラグ的なものをすっごい感じるが、とにかく俺は面会の準備に取り掛かった。

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