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第63話 昼食会

「―――と、言うことなんだけどどう思う?」 午前中、ツェツィ、女官長と話した内容を俺はアイルたんに打ち明けていた。今日のランチは俺特製デミグラスソースオムライスである。 因みにご意見番として宰相も招いた。無論ランチは宰相の分も用意したんだけど。 「その前に、この奇怪なメニューは何ですか。お汁粉の次は一体何を開発したんですか」 ぐはっ。 早速宰相にツッコまれる俺。 「オムライス。知らないの?旨いよ」 「―――そうか、今度は調味料に手を出すか」 宰相は俺特製デミグラスソースに目を付けたようである。 「まぁ、できることならマヨやケチャが欲しいけども」 「……っ、今度は一体何を開発するつもりだ!」 「いや、開発はしない!何故ならマヨはツェツィの祖国の特産品だ!あと、ケチャはマーマイトと一緒に祖国で親しまれている!」 俺はマーマイト苦手だけど、確かラピスは好きだったはずだ、マーマイト!マーマイトと一緒にケチャップも有名なのだウチの国は! 因みに、ケチャップはカレーの隠し味としても優秀なのだ。これをサザン諸島に持ち込んだ時、カレーの師匠であるママンたちも絶賛していた。今ではウチの国からの主要輸出品だ。むろん、主要輸入品はカレー粉である!最近ではカレー粉を帝国に輸出し固形ルー化し、祖国に入ってくるものも多い。その他鰹節なども祖国は輸入している。帝国でも俺が個人的に取り寄せ、城内の料理人たちに勧めたら広まった。 「……なら、流行らせる気か」 「すまん、鰹節なら多分もう流行っている」 「うぐっ、遅かったぁっ!!」 ―――悔しがりながらも宰相はオムライスを食べてくれた。 「ティル、ずっとヒューイとばかり会話している」 アイルたんがぷくーっと頬を膨らませていた。 「ごめんって、アイルたん。今度マヨを使った照り焼きチキンとか、ハンバーガー作ってあげるから」 「ん、ティルが作ってくれる手料理ならば、何でも食べる」 「アイルたんったら」 「そうやって食でじわじわと侵食する気か!」 「人聞きが悪いぞ宰相!」 「前科過多でしょうがっ!」 ぎっくー。 確かに。でも帝国の利益にもなってるよ? 「あぁ、それでジャラムキ王国の件だったか」 あ、宰相が真面目モードに戻った。 「確かに、討伐に関する知らせは中央に来ている。そしてその褒章についても探りがあったな」 「まさか、ツェツィをそのまま与える気か?お母さんは許しませんよ?」 「いや、誰がお母さんですか。あんたそのネタ本当に好きですね」 「だって俺はカレーの母だよ!?」 「こら、ティル」 「えへへ、ごめん、アイルたん」 宰相を見つめ過ぎた。お詫びに2倍アイルたんを見つめる俺。 「まず、魔獣の討伐についてだが。自国で起こった魔獣討伐については、それぞれの属国から褒美なりなんなりを与えることは許可しているが、帝国から与えるかどうかは帝国の判断だ。今回の討伐については規模が小さいし、本当にあの王子が討伐したのかもはっきりとした証拠はないし、あの程度ならアイスフィールド辺境伯は片手で片づけるぞ」 アイスフィールド辺境伯とは、つい最近リリィ姫が嫁入りした先である。そう言えば俺宛てに手紙も来ていて、毎日仲良く暮らしているようで何よりである。 「そもそも、自分から皇帝陛下に対して褒美をくれというなどおこがましいし、それほどの功績でもないぞ」 そう、宰相が吐き捨てる。 「確かにそうだよねぇ」 少しはヴィンデル王国を見習ってほしい。 「それに、ツェツィ王女の妃候補入りについては、こちらで事情を把握している。付き合いの長いヴィンデル王国からの打診があって受け入れたのだからな」 確かに。そう宰相が手を回してくれたって聞いた。後宮ほど、ジャラムキ王国からの縁談を寄せ付けない安全な場所はないわな。まぁ、後宮が魔窟になりかけていた時もあったが、今はキレイに掃除してあるし、ツェツィにとっても他の妃候補の子たちにとっても安全安心な場所になったのだ。 「皇后陛下が預かった手紙と言うのを、こちらでも頂戴していいですか?ことと次第によっては、ジャラムキ王国に抗議いたしますので」 「そう言うことなら。後でユーリに頼んどく」 「えぇ、お願いします」 「―――それにしても」 アイルたんが不意にスプーンを置いて俺を見つめてくる。ひあぁっ、アイルたんのその熱い眼差しがぐはっと来るっ!! 「デミグラスソースと言うのは、旨いな」 あ、あああアイルたん!気に入ってくれた!? 「デミグラスソース、他の厨房にもおススメしようかなぁ。あと、調味料としても商品化すれば使う時楽じゃない?」 無論、俺は手作り派だけど。アイルたんが食べられるように、俺が丹精込めて作らねば。 「やはり流行らせる気でしょう!今度はやはり調味料で侵食する気でしょうがっ!」 「うがぁっ!」 「ん、ティルの味は、やはり旨いな」 「あ、アイルたんが喜んでくれるなら、俺は……やるっ!」 「せめて穏便にやってください。あと事前に計画書を提出してください」 「―――うぅ、はい」 先日のお汁粉屋台の反省を込めて、俺は素直に頷いた。

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