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第65話 その後の顛末

―――翌朝。 俺は作り置きしておいたポーションを騎士たちに配り、負傷した者たちへの治療を終えると、いつでも出られるようにと念のためベッドの脇に剣を置いて、アイルたんに寝るようにと諭された。 俺の場合は聖魔力の回復も必要だからと。まぁ、俺がいれば大体の傷は治せるから。もしもの時のためには必要不可欠かも。 しかし後宮のことを考えれば素直に寝付けるはずもなく、ちょっとばかり寝不足気味だけども多分聖魔力ですぐに回復するだろうとむくりと起き上がる。 寝室を出れば、既にダイニングにはアイルたんがおり、宰相も来ていた。 「ティル、あまり寝られなかったのか」 アイルたんが俺の頬に優しく掌を添えてくれる。 「うん、でも聖魔力で回復するから平気」 眠気は回復しないけども、目の下のクマとかだるさは回復するはず。 「無理はしなくていい」 「けど」 アイルたんたちはもう動いているんだし。 「まずは座って話をしましょう」 宰相の言葉に、俺はアイルたんに手を引かれてソファーに向かう。宰相と向かい合う形でアイルたんと並んで腰掛ければ、既に起きてきていたクロードが眠気覚ましのお茶を出してくれた。 既にユーリとメイリンも起きているらしい。みんなあまり寝られていない。まぁ、当然っちゃ当然なのだけど。 「捕縛した者たちに対しては、尋問が行われている最中です。それと、今回襲撃者の中に属国ジャラムキ王国の王族が含まれていたため、即刻大使を呼び寄せ、ジャラムキ王国への事実確認を行っている」 まぁ、そりゃぁそうなるわな。 「手引きした者については」 アイルたんの問いに、宰相が答える。 「こちらの手の者があたっています」 多分、コンラートの部隊のことだろう。コンラートが率いている騎士たちは、表舞台にはなかなか出てこない裏担当だからな。 つまりメイリンたちと同じ側ってこと。 「それにしても、陛下はお強いので心配は杞憂ですが、皇后陛下まで行ったんですか。しかも剣を交えたと」 「え?まぁ、それなりに剣は使えるぞ。もしもポーションが足りない時は聖魔法があるし」 最近はアイルたんに搾られている聖魔力も、少し控えめにしていたのでストックはあったのだ。ここら辺はアイルたんと事前に打ち合わせをしており、いつでも不測の事態に対応できるようにしていた。 「だからって、一応皇后陛下なんですよ」 「一応かよ」 「俺が付いている。ティルに傷ひとつでもつけて見ろ。八つ裂きにする」 ひえぇっ、アイルたんったら。 「忘れていました。皇帝陛下が付いていらしたんですものね。でも、ひとりで勝手に行かれなくて良かったです」 「あはははは」 まぁ、俺ならルークから知らせを受けたらひとりでも行っていただろうけど。 「行かせん。ティルの行く場所ならば、俺が常に把握しているからな」 「あ、アイルたんったら!」 「全く。朝から仲のよろしいことで」 宰相はふぅっと息を吐くと。 「昨夜の襲撃があったため、後宮の警備を厳重にしております。皇后陛下はもしもの時のために少しでも聖魔力を温存してください」 「わ、わかったって」 アイルたんはこのまま執務室へ向かい、今後の対応に移るらしい。俺はもう少しこっちで身体を休めろと言われ、アイルたんと一緒に朝食を食べた後は少し仮眠をとることにしたのだった。 ――― その後明らかになった事実としては、後宮内への侵入の手引きをしたのは、後宮を辞めさせられてジャラムキ王国に逃れたかつての女官だということ。もちろんその女官も捕らえ、ならず者たちと同様に刑に服すことになった。 なお主犯のソラン殿下については、皇帝の妃候補に手を出した罪は重く、情状酌量の余地はないとして処刑が決まった。 なお、この件の謝罪のためにジャラムキ王国は王女を差し出すと言ってきたものの、そんなことはもちろん受け入れられることなく、ジャラムキ王国の国王夫妻と王女は王族の資格を剥奪、生涯ジャラムキ王国の離宮に蟄居、また次期王はジャラムキ王国の公爵家から出すことになり、更にかの国にはいくつもの制裁が科されることとなったらしい。 その後後宮ではリフォームして間取りを変えたり、警備体制を見直したりと色々と忙しく過ごしている。なお、何故か賊に自ら立ち向かった皇后陛下として俺の行動は大々的に国内外に広められ、近衛騎士隊の後宮騎士隊入隊希望者が格段に増えたのだそうだ。 襲撃後は色々と不安がっていた女性用後宮のみんなも、今ではすっかり元の生活を取り戻しつつあり、ツェツィも原因のソラン殿下が処刑されたことで少しは安心した様子で立ち直りつつある。 だから、俺は今日は。 「皇后陛下、今度は何をするつもりですか」 ユーリを巻き込んで屋台をカタカタと引っ張っている俺の傍らには、宰相が立ちはだかっている。 「……え、たい焼き屋台」 後宮にはスイーツ好き女子も多いのだ。てなわけでみんなを元気づけるためにも本日はたい焼きを用意した。 「後宮より外に屋台は出さないように!」 「わ、わかってるって」 「でも、旨いぞ」 もちろんアイルたんには最初に味見をお願いし、もひもひといまもお代わりを食べてくれている。 「ほら、宰相も」 俺がたい焼きを取り出せば、渋々口にする宰相。 「まぁ、いいですけど」 何だろう、宰相ったらやっぱクーデレ? 俺は後宮内でのたい焼き屋台を主催したのだが、思いのほか騎士や料理人たちを通して噂が広まり、城内を始め帝国内でたい焼きが大ブームになったため、宰相に渋い表情で睨まれた。 何でも、その身を呈して後宮で自ら剣を取って戦った皇后陛下おススメスイーツとして大流行りしたらしい。 ……うぐっ、不可抗力だもんっ! 今夜はアイルたんにたくさんよしよししてもらおうと心に決めた俺であった。

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