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第67話 温泉

―――グラディウス帝国の皇帝が代々利用してきた宿は、やはり老舗の高級宿である。しかも滞在中は宿丸々貸し切りと言う贅沢さ。もちろん俺たちの他に護衛や侍従たちが泊まる部屋も同じ宿内に確保してあるからなのだが。警備の問題上、安全のために丸々貸し切りとなるのだ。 それでも、アイルたんは即位当時はなかなか来られなかったので、即位後初めて滞在したのは去年だそうだ。そして今年は皇后である俺と一緒に滞在と言うことで宿のひとも泣いて喜んでいた。なんせ3年ほど皇帝がこの地を訪れなかったのだから、温泉街の賑わいもかなり落ち込んでしまったそうだ。 だから新皇帝陛下が即位して安定した治世の今、観光客もかなり戻り始め、皇帝陛下が2年連続で滞在してくれることは、温泉街全体の悲願らしい。それに皇后付きとなればもう温泉街どこもかしこもお祝いムード。俺とアイルたんを記念した温泉饅頭なんかも売っていた。何だか照れる。 そして、俺とアイルたんは宿の部屋に戻るなり、早速温泉に入ることにした。大浴場もあるのだが、そちらは護衛や侍従たちが使用する。俺とアイルたんは皇帝専用のロイヤルスイートにある個室露天風呂を利用する。 「わぁ、アイルたん見て!湯の色がキレイ!」 まず目を奪われたのが湯の色だった。俺は無色透明とか、乳白色とか茶褐色を想像していた。この世界の他の温泉地にも割と多かった色である。 しかし、こちらの温泉は不思議な色をしていた。 「あぁ、ここら辺の湯は変わった色をしているだろう?」 「うん、金色なんて見たことない!」 どちらかと言えば黄土色に近いのだが、これは金色と言ってもいいレベル!前世の日本でも見たことないよ~。 ※とはいっても、実はラティラが知らないだけで金色(黄土色)の名湯は存在する。 ※いや、むしろ知ってたらすごい。 まずは身体を洗い、そしてかけ湯をして。 「いざっ、突入っ!」 「ティルは見ていると本当に面白いな」 「え、そう?」 俺は金色の湯にちょこんと足の指を浸け、そしてのっそりと湯の中に脚を踏み入れる。 「わぁっ、温度もちょうどいいかもっ!じんわりきそう!いや、もうキテる」 「ふふ、俺も去年入ったが、なかなか良かったぞ」 アイルたんは去年から利用してるんだもんね。 「じゃぁ、早速アイルたんも~」 俺がアイルたんの手首を掴み、腕を引っ張れば。アイルたんも一緒にゆっくりと湯船の中に入ってくれる。2人で湯船の中にちゃぷんと浸かれば。 「あぁ~、生き返るぅ~」 「はは、何だそれは。元々生きているだろう」 ぐはっ。そうなんだけどね? 「それに、何だろう。めっちゃキラキラしてきた!」 お湯が、黄金に光ってる!? 「すごいこの温泉!」 「いや、去年はそんなことはなかったが」 「え、そうなの?」 そして暫くすると光はおさまった。 「何だろう、奇跡でも起きたのかなぁ。あぁ、でも温泉きもちい」 「あぁ、何だかティルのナカにいるみたいだ」 ぐはっ。あ、アイルたんったら。 「こ、今夜も、やる?」 そんなこと言われたら、やっぱり夜のことを想像してしまう。 「我慢せよと言うのか?」 アイルたんのVIVA・真顔っ! 「いや、まさかぁ~」 祖国の王城にも帝国城にもでっかい湯船はあるとは言え、本物の温泉は何だか入ると色々なものが浄化されていくようである。 「ふぃ~、きもち~」 「あぁ、たまにはこんなゆったりとしたのもいいものだな」 「ひぁっ」 すっかり熟年夫夫のようなノリになっていたのだが、アイルたんのそのお手の位置はああぁぁぁっっ! 「ティルの裸を見ていたら、我慢できなくなりそうだ」 「ひ、あ、アイルたんったら」 んもぅ、湯船の中で見えないからって。 「じゃぁ、お返し」 ゴツッ 「あ、ごめっ」 想像以上に硬かった!そして何だろう。 むにっ ちょっと、勃ってたり、するの? 「今ここでやろうか?」 「そ、それは宿のひとに迷惑かかるからぁ~!」 そう言ってざばんと上がれば、自然とアイルたんも俺の背中にくっついてくれて。 「夕食前に、少しやろうか?」 「え、えっと。さすがにそれは。それに、俺には使命が、あるから」 「その間、ティルと離れるのが辛いな」 「大丈夫。ちゃんとBGM流すから」 「あぁ、頼んだぞ」 そう、アイルたんと互いに顔を合わせて微笑み合う。 温泉から上がってバスローブを羽織る。模様が前世で温泉宿なんかにあった浴衣みたいだな。ふとそんな風に思っていれば。 「ティル、時間まで茶でも飲もうか」 「うん、もちろん」 先に部屋で待ってくれていたクロードが、お茶セットを俺に差し出してくれる。もちろんアイルたんにお茶を淹れるのは俺である。 まるで旅館の和室のような座卓にアイルたんと向かい合って座り、そしてお茶を淹れる。 「はい、どうぞ」 「ん、いただこう」 本当はお茶請けがあればいいのだけど。それはまた明日のお楽しみってことで。

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