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第70話 その後の後宮
俺が祖国でやらかして、そしてアイルたんに嫁いでからもうすぐ1年になる。その頃には女性用後宮に候補として滞在していた姫たちの全てが皇帝陛下より臣下に下賜され、嫁いで行った。
夫の領地で色々な事業に携わり活躍するものや、外交官の夫と共に各国との橋渡しをするもの、子どもたちを育てながら家庭教師をするもの、後宮騎士に入隊する者(ミリア以外にもいた)、また女官として勤務するものなど、様々だ。
今のところ、夫とうまくいっていないとか、問題を抱えて後宮に戻ってくると言ったような事例はない。みんな元気にやっているようだった。
そして、そんな女性用後宮から最後に旅立つことになったのが、長らく後宮を纏め上げてくれたツェツィであった。
「ツェツィ。今まで後宮を纏めてくれてありがとう。辛いことがあったらまたいつでも戻ってきていいからな」
「はい、ラティラ陛下」
「―――あの、だから戻ってきたらダメでしょうが」
と、宰相がいつもの恒例台詞を吐いてくれる。
「でも、何かあった時のためにシェルターは用意しておくべきじゃない?俺はツェツィたちを送り出す立場なんだから」
「微妙に皇后と妃候補の関係から外れている気もしますが」
はぁっと宰相がため息をつく。
「まぁヒューイが俺が下賜した姫を大切にしてくれれば済む話だな」
そう、俺の腰を抱き寄せながらアイルたんが宰相に向かって微笑んだ。
「ま、まぁそうですが」
宰相は柄にもなく頬を赤らめて口元を手で隠して照れていた。そんな宰相を見て、ツェツィは愛おしそうに微笑む。
そう、ツェツィの嫁ぎ先は宰相だった。宰相は公爵なので、ツェツィは公爵夫人となる。属国の姫と本国の公爵、それもアイルたんの忠臣で右腕である宰相に嫁ぐとあっては、彼女やその祖国ヴィンデル王国を如何に皇帝陛下が重用しているかがわかる。
そして、かつてツェツィに手を出して今でも絶賛制裁中、信頼回復はまだ先のジャラムキ王国への牽制でもある。またツェツィやヴィンデル王国に手を出したらただじゃおかねぇぞと言うことだ。
それに、かつてツェツィの危機に宰相が手を回して後宮にかくまったと言うこともあって、ツェツィは宰相にとても感謝しているし、何だかツェツィの前では宰相が面白いほどに照れるので、恐らくツェツィは宰相にとても大切にしてもらえるだろう。
「それに、宰相の業務の方も落ち着いて来てるんでしょ?」
「まぁ、どこかの誰かさんに人材を引き抜かれたので大変でしたが、その後増やせましたから」
「うぐっ」
まだユーリのことを根に持ってんのかこのひと。
「それだって、ここを巣立ってった子じゃん」
「まぁ、その才を見出すきっかけを作ったのはあなたですけどね」
帝国にはまだまだ女性官吏が少ない。そんな中で、女官の仕事をそつなくこなし、将来性のある姫は、女性が働くことに理解のある臣下に下賜された。そして今では宰相が引き抜き、補佐官のひとりとして登用した。
彼女の実家は元々、彼女が文官として仕えるのを反対していたのだが、宰相の補佐官のひとりになってからころっと態度を変えやがったのだが、その実家を取り纏める一門の長が近衛騎士となったミリアの嫁ぎ先だったので、そこは存分に牽制してもらい、実家との縁を切ったうえにミリアの嫁ぎ先の侯爵家の籍に入ってもらって手出し口出しできないようにしてもらった。
そう言えばそんなこともあったなぁ。
そんな風に考えつつ。
「ツェツィも落ち着いたら、また後宮に、今度は務めに来るか?」
「その時は、是非またお願いします」
「まぁ、反対はしないが」
ツェツィがしたいことに、宰相も特に反対せず照れながらも後押しはしてくれるようだ。
「夫婦げんかしたらいつでも籠っていいぞ」
「まぁっ!」
「……んなっ、そう言う冗談はやめてください!」
「えぇ~、でも~」
「そうだそうだ」
俺の言葉に、アイルたんも俺を背中からぎゅーしながら援護してくれる。
「と、とにかく。私は妻を家まで送り届けるので、本日は早退しますから」
「ん、わかってる」
「私がいなくてもちゃんと仕事してくださいよ、陛下」
「んー、うん」
宰相の言葉に、アイルたんは迷いながらも頷いた。
「陛下の秘書官たちには念を押してますから!」
「―――ちっ」
こ、こらこらアイルたんったら。
宰相とツェツィの新たな門出を見送って、さて俺も執務室に行こうと思っていたら、表にアイルたんの秘書官たち(ユーリのお兄さん含む)がにっこりと微笑んで待機しており、アイルたんは泣く泣く執務室に帰ることになった。
「それじゃ、また夕食の時にね」
そう言って頭をぽふぽふしてあげれば。
「ん、がんばる」
何だかアイルたんのやる気も上がり、秘書官たちにも感謝されてしまった。
―――女性用後宮にはもう妃も妃候補もいないけれど、次代のために管理はしっかりしないといけないから、女官たちや騎士たちがしっかりと詰めている。以前、事件もあったし、本格的にリフォームもして、さらに過ごしやすくするつもりである。バリアフリーも目指している。こちらの男性用後宮は今いるのは俺だけだけど、こちらの管理も必要だからと侍従長のクロードを中心に人員を増やしている最中である。
もちろん、こちらの厨房担当は相変わらず俺なんだけど。
さて、俺もそろそろ仕事に移らねば。
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