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四 歳の差六つ

 大津たちと話ながら酒を飲んでいると、十五分ほどで吉永がやって来た。 「マジでバーだし。スゲー。結構来てるじゃん」  奥の席に座った俺の隣に腰かけて、吉永がカクテルを注文する。噂を聞きつけて来たのか、バーは盛況のようだ。副寮長の雛森が様子を見て「営業は門限までね」と注意を促してきた。確かにいつもより賑わっているせいで、少しうるさいかもしれない。 「何やってたの?」  グラス片手に問いかける。吉永は「うーん」と唸りながらオレンジ色のカクテルを啜った。どうにも、歯切れが悪い。 「何だよ」 「何って程のことでもねえんだけど」 「なんだそれ」  なんとなく面白くない。だが、それを口にすると、駄々っ子のようで憚られる。結局は気にしていないふりをして、視線を外して酒を啜る。カクテルの風味に苦味が混ざっているような気がした。吉永はケラケラ笑いながら、蓮田に「つまみはないのか?」と強請っている。  つい口を曲げながらカクテルを啜っていると、吉永がグイと肩を掴んできた。 「なにシケたツラしてんだよ?」 「してねえよ」 「嘘つけ。さてはフラれたな?」  フラれた、という言葉にドキリとする。ここのところ、吉永にフラれてばかりだと思っていた。 「お。図星か? 河井さんか?」 「ち、違うしっ……。忙しいみたいだから、様子見てんだよ」 「はーん? どうだか。お前って、ああいう大人しそうなタイプが好きなんだなあ」 「うるせえよ」 「ああいう子って、案外気が強いと思うよ~?」  本当に、うるさい。 (なんで俺、コイツを誘ったかな……)  来なければ来ないで面白くなかったと思うけれど、来たら来たで鬱陶しい。 「航平のヤツ、あと一年で寮を出るって宣言してんですよ」 「え? マジ?」  蓮田がチクる。吉永は俺の方を見て、ニヤニヤと笑った。 「おい、言うなよ」 「ふーん? なるほどねえ。彼女作って、寮出て、イチャイチャしたいんだ?」 「うるせえなあっ!」  その通りだが、図星を指されると腹が立つものだ。特ににやけ顔が腹が立つ。 「別に、フツーだろ。フツー」 「まあまあ。拗ねんな。恋の相談なら、乗るぜ?」 「面白がるだけだろ。絶対に嫌だね」  そんなことないのに、とぶりっ子ポーズを決める吉永に、呆れてグラスを空にする。絶対、笑いのネタにするだろうが。そんで、俺を笑って酒の肴にするんだ。 (なんでまあ、河井さんのこと、バレたかな……)  総務の河井さんは、笑顔が可愛らしい女性だ。清潔感があって優しそうな雰囲気の可愛い子。何度か手続きのために総務に行ったとき、申請で理解できない部分を丁寧に教えてもらった。その後、「ちょっと良いな」程度に思っていた所、運よく連絡先をゲットしたというわけだ。別に好きというわけではないけれど、好みのタイプではあるし、ああいう女の子が彼女だったら良いだろうな、って思える感じ。まあ、大人しそうではあるから――どんなデートが好みなのかが、正直に言うと解らない。今は世間話をする程度でお茶を濁している。そのうちデートに誘って、感触が良さそうなら……と思っているところだ。 「そう言う吉永は、いつまで寮にいる気なんだよ」 「んー。オレはなあ……。出る理由もねえしなあ」 「そんなこと言ってたら、ジジイになるぞ。まあ、もうなってるか」 「口が悪いぞ」  吉永がそう言いながら俺の耳を引っ張る。 「痛てえっ」  やり返してやろうかと思ったところを、大津が間に割って入る。 「まあまあ。二人ともグラス空じゃん。次は何飲む?」 「――おすすめで」 「チャイナ・ブルーで」  俺はカクテルの名前なんて一つも解らないのに、吉永は詳しいようだ。注文を受けて大津が作り始める。 (……何だかんだ)  同学年のような感覚で付き合っているけれど、吉永は実際問題、俺より六つも年上だ。社会人経験の浅い俺よりも、ずっと多くのことを知っている。多分。 (なんだかな)  時々、妙に距離を感じる。多分それは、世代ギャップってヤツで、実際問題、埋めることの出来ない溝のようなものだと思う。 (なんだかな)  大口を開けて笑う吉永の横顔を見ながら、なんとも表現しがたい感情のまま、桃色のカクテルを啜った。

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