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十六 二人の時間

 怠い身体をなんとか動かして、服を着こむ。吉永の方はヘロヘロで、手伝ってやらないと着がえもままならなかった。まあ、俺が悪い。でも誘った吉永の方がもっと悪い。  ようやく着替えたところで、丁度ロッカールームの扉が開いた。 「お? 先客?」 「宮脇」  ドキュンファッションの否モテ同僚、宮脇陸だ。どうやら日課のランニングを終えてシャワーを浴びに来たらしい。休日にまで走っているとは、恐れ入る。 「珍しいな」 「昨日遅かったから」 「あー。吉永センパイ眠そうだもんねー」  笑う宮脇から、なんとなく吉永を身体で隠す。首にべったりと痕がついている。今この状況だと、着けた犯人が俺みたいになる。まあ、俺だけど。  宮脇は特に何も言うこともなく、ダサいTシャツを脱いでロッカーに突っ込む。勘が良い奴じゃなくて良かったと、ホッとする――「あれ?」宮脇が声を上げた。  ギクリ、心臓が跳ねた。 「ん?」 「シャワー一緒に使ったの?」 「あ、ああ、吉永、こんなだから……」  しまった。シャワー室、一か所しか使っていないのがバレた。もたれかかって眠そうにしている吉永を指して、ごまかす様に笑う。宮脇も察したように笑った。 「ああ、大変だな、お前も」 「ん、まあな」  心臓が、バクバクしている。何か変に思われなかっただろうか。バレなかっただろうか。シャワー室、ちゃんと流しただろうか。匂いは大丈夫だろうか。痕跡が残っていたら、どうしよう。  少し心配になったが、宮脇は未使用のシャワー室へと入って行く。俺は吉永の腕を掴んで、逃げるようにその場を後にした。  ◆   ◆   ◆ 「吉永、大丈夫か?」 「んー……、ねむ……」  吉永はだいぶ眠そうだった。目を離すとフラフラと壁に激突しそうになる。正直に言えば俺も眠い。昨夜は随分起きていたから。 「俺、部屋戻って二度寝するけど」 「おれも寝る」  腕にしがみ付いて、吉永が言う。 「部屋戻って寝れば?」 「えー。シーツ洗っちゃったし」 「あー、まあ、そうか」  まあ、一緒に二度寝するのも嫌なわけじゃない。このまま解散というのも味気なかったし。足取りの怪しい吉永を連れ、部屋の方へ向かう。吉永は何を考えているのか分からない様子だったが、少なくとも嫌なわけじゃないはずだ。俺とするのも、こうして眠るのも。  部屋に入ると、吉永はすぐに、ぽてっとベッドに転がった。そのままもぞもぞと布団の中に滑り込んでいく。少し眠気は消えていたが、起きているのも惜しい気がして、一緒にベッドに滑り込む。吉永がすり、と身体を擦りよせてくる。無意識なのかわざとなのか、核心は持てなかったが、悪い気はしない。そのまま身体を引き寄せ、腕の中に捕らえる。 (石鹸の匂い……)  柔らかな髪に顔を埋め、匂いを吸い込む。吉永はもう眠ってしまったのか、静かに寝息を立てていた。 「……」  唇を寄せ、額に軽く触れる。キス――したことを、揶揄われたくない。だから、バレないよう、ほんの少しだけ。  吉永が小さく身体を動かす。一瞬起きたかとおもったが、そうではないようだ。ほっとして、瞼を閉じる。  この時間を、誰にも邪魔されたくないな。漠然と、そう思った。

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