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二十三 買い物

「登山道具買いに行くって言ってただろ。そろそろ、揃えた方が良いんじゃないの?」 「あ」  うっかり忘れていた。課長の顔をみると思い出すのに、寮に帰ると忘れてしまう。  吉永のフォローに、俺は仕方がなしに立ち上がる。面倒臭いが仕方がない。今日は映画でも観ようと思ってたのに。 (……ていうか、だから起こしに来たのか……)  大抵、休日は十時ころまでだらだらと寝過ごしている俺だが、今日は九時に吉永が部屋に乱入して来た。いちいち鍵なんか掛けないので、入り放題である。まあ、余程、仲が良くないと入ってこないが。 「ぺリアで買える?」  駅にある大型商業ビルであるぺリアでは、大抵のものは揃う。ただ、専門的なものなら専門店に行くか、都内に出てしまった方が早い。 「本気の登山じゃないなら平気だろ」 「良かった」  寝巻き代わりのスエットを脱ぎ捨て、クローゼットを開く。 (ぺリアか……。別になんでも良いだろうけど、誰かに会ったら恥ずかしいしな)  それなりの格好をしておこう。俺が着替えている間、吉永はスマホで暇潰しのゲームをやっている。 「それ面白い?」 「まあまあ。時間食うほどハマらなくて良い」 「なるほど」  シンプルなヤツでも、変にハマって数時間食うからな。スマホゲームなんて、適度に面白くない方が良いか。 「朝飯食いながら行こうよ。杉屋で良いじゃん」 「おー」  飯を食ってから行けば、ぺリアの開店時間にちょうど良い。そんなに早く行かなくても良いんだが、門限を考えればそんなもんか。ついでに遊んできても良いわけだし。  予算をどのくらいで見積もれば良いか解らないが、カードもあるし問題はないだろう。財布をポケットに突っ込み、吉永の方を向く。 「行けるけど」 「ああ、うん。行くか」   ◆   ◆   ◆ 「こんなもん?」 「良いと思う」  吉永に言われるままに、スニーカーやらリュックやらを購入した。そこそこ出費にはなったが、まあ、無駄になるもんでもない。登山を続けなかったとしても、普通に使えるし。吉永のほうも、トレーナーを一枚買ったようだ。 「このあとどうする?」  買い物をした袋を片手に、振り返る。まだ時間に余裕があるし、映画を観るとか、遊んで帰るとかしても良い。せっかく、駅の方まで来たのだ。 (飲みには、早いか)  そう思っていると、吉永の方も同じ意見だったらしい。 「飲みには早いよな」 「そうっすね」 「じゃ、休憩でもするか」 「はぁ」  気のない返事に、吉永が不満そうに唇を尖らせた。なんだ、その顔。 (てか、休憩って。お茶でも飲むのか?)  と、そこまで考えて、ハタと気づく。 (え) 「何だよ、気乗りしない感じ?」 「えっ、いや、その」  休憩って、そういう意味か。  じわりと、頬が熱くなる。当然、嫌なハズなどないし、なんなら、寮ではなく外のホテルでというのは、たまらなく良い。 「いや、じゃねえよ。もちろん」 「ふうん?」 「マジだって」 「そ? まあ、良いけどさ。じゃあ、行く?」 「行く」  即答した俺に、吉永は一瞬目を丸くして、それからぷは、と笑った。こんな風に、魅力的に笑うヤツだったろうか。胸がざわめく。 「じゃあ、行こうか?」  促され、頷く。ドクドクと、心臓が鳴る。  それが期待によるものなのか、別のものなのか、良く分からないけど――。  悪い気は、しなかった。

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