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四十九 イケナイこと
吐息と共に、吉永の舌が俺の唇を割って入り込んでくる。背中に樹があるので、避けようがない。まあ、避けようと思ったわけではないが。
身体をピタリと寄せ合い、唇を貪られる。吉永の身体は服の上からでもハッキリと解るほど熱かった。その感触が、やけに生々しい。
「っ、ん」
舌を絡めとり、唇を吸われる。吉永に求められる興奮に、頭がクラクラした。
「ぁ、ん……、航平……っ」
ちゅ、ちゅぱっと音を立て、唇が離れる。そのまま、吉永が俺の首に吸い付く。ぞくん、皮膚が粟立つ。本当に、見境なくなっているらしく、外だと言うのを忘れるほど、吉永は積極的だった。
「はぁ……っ、はっ……、ん……」
「っ、……吉永っ」
吉永の熱に当てられそうだが、まだ頭は冷静だ。何とか落ち着かせて、寮に戻りたい。
(落ち着け、落ち着け……俺まで興奮して、どうする)
くそ。あんなとこでキスなんかしなきゃ良かった。
吉永は俺のシャツのボタンを千切る勢いだし。さっきから下半身に硬いものが押し当てられてるし。
「吉永っ……、ここじゃ」
「ヤダ、我慢できない」
駄々っ子みたいにそう言って、頭をすり寄せる様子に、一瞬絆されそうになる。くそ。甘えるな。
「吉――」
もう一度説得を試みようとする俺に、吉永は息を荒くしたまま、俺のスラックスからベルトを外し、下着ごと一気に引きずり下ろした。
「うおっ」
何すんだ。声が出かかって、唇を押さえる。まだ寝静まる時間じゃない。近所の人が出てきたらまずい。
「お、おいっ」
「なんだよ、勃ってねえし……」
不満そうにしながら、吉永が地面に座り込む。
(おい、おい、おい)
ぱくんと性器を咥え込みながら、耳に掛かった緩やかな髪を掻き上げる。生暖かい舌の、ぬるぬるした感触に、ぞわっと背筋が粟立つ。
「っ……!」
(何やってんだ……っ! 見つかったら、通報待ったなしだぞっ……!)
理性ではまずいと想いながら、舌遣いと状況に興奮して、身体の方が言うことを聞かない。引き剥がそうと吉永の頭を押さえた筈が、いつの間にか真逆のことをしている。
「んむ、んっ……」
喉奥まで捩じ込まれ、くぐもった声が吉永の唇から漏れる。
吉永は口で愛撫しながら、手で自分の服を緩めて、下半身をまさぐり始めた。
(……エロっ)
俺の位置からは見えないが、多分後ろを弄くっているのだろう。ぐちぐちと、静かな公園に音がひっそりと響く。
「っ、は……、吉永……っ」
「んぅ、む……ん」
こんな状況だと言うのに、吉永が俺を欲しがっていることに興奮する。俺のを咥えて、自ら穴を弄くって、こんなに乱れている姿に、心臓がバクバクと鳴り響く。
(っ――、挿れたい……)
今すぐ、こちらに尻を向けさせて、丸く白い尻を掴んで、奥まで捩じ込みたい。何度も突き上げて、声が嗄れるまで啼かせてやりたい。
「吉――」
ぢゅうっと性器に吸い付きながら、恍惚とした表情を浮かべる吉永の顔に手を添え、上を向かせる。もう良いから、早く繋がろう。そう言いかけた、瞬間。
ピー、ピー、ピー。と、電子音がな鳴る。驚いて、吉永が吸い付いていた性器を一際強く刺激した。
「うっ……」
反動で、ビクビクと腰を揺らしながら、一気に精液を放つ。とっさに吉永の顔を押さえつけ、口の中に全て注ぎ込んだ。
「むぅ、ん!」
全て出しきって、身体から力が抜ける。吉永は恨めしそうな顔をして、小さく咳き込みながら唇を拭った。
「なんだよ、急にっ……!」
「悪い……。アラーム」
そう言って、腕に巻いたスマートウォッチを見せる。残業する時に、門限に間に合うように設定しておいたアラームだ。平日はいつもこの時間に鳴る。
「はぁ? なんだ、アラームって」
「もう時間切れだ。門限に間に合わなくなる」
「は!? なんだよ、時間切れって!」
「言葉通りの意味だろ。ほら、服直せって」
そう言いながら、脱がされたスラックスを直し、気崩れたシャツも直す。吉永は不満そうな顔をしたが、しぶしぶといった様子で立ち上がった。
(まあ、可哀想だけど……さっきのアラームで少し萎えたっぽいな)
「おれまだイってないのに……」
「はいはい」
吉永の服を直してやる。吉永はむすっと唇を結んで、爪先を上げてちゅっとキスをしてきた。
「おいコラ」
「帰ったら、続きしよ?」
「まあ、良いけど」
俺はイったけど、吉永の中でイきたいし、あちこち触りたいし。異論はない。
(少しだけ、惜しかった気もするな……)
通報待ったなしだし、屋外なんかしたことないし、緊張するし。良いことはないのだが、興奮したのは事実だ。
「吉永、コンビニ寄る?」
「寄るわけねーだろ。お前、わざと言ってるだろ」
「バレた?」
からかいながら、ヒソヒソと笑い合う。怒ってる顔も、お預け食らって不満そうな顔も、全部が愛しく思える。
通りに戻りながら、一度だけ公園を振り返った。
「あんな場所に公園なんかあったんだな」
「住宅地には大抵あるだろ」
「そりゃ、そうだけど」
確か、法律だかなんかで決まってるんだったな。でもまあ、良く知っていたもんだ。
「昔は、よく時間潰してたからな」
「ん?」
ボソリと呟いた言葉に、吉永を見る。
「それより、早く帰ろ。すごい疼いちゃってダメ」
「あ、あのなあ……」
そりゃ、お前が尻を弄くってたからだろ。とは言えずに、顔を赤くする。
吉永に引っ張られるようにして、俺たちは夜の道を歩いていった。
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