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六十二 寮内同棲、解消の危機!?

 吉永の言い分すべてが解らないわけじゃない。まして吉永の立場では、恐怖心もあったのかもしれない。まあ、俺の配慮がなかったのは反省だ。 (そりゃ、まあ……解るけど)  今回は良かった。羽鳥は恋人が居るし、吉永に興味を持たなかった。けど、もし持っていたら? 羽鳥は身体が大きいし、吉永には吉永の怖さがあったのかもしれない。俺が居ないときに羽鳥と二人になったら、怖い思いをしていたかもしれないし。それは、配慮がなかったかもしれない。 「だからって……」  ベッドに寝転んで、ハァと溜め息を吐く。吉永の決定は、しばらく覆りそうにない。 (この前まで、同じベッドに寝てたのに……)  狭かったベッドが、広く感じる。隣に手を伸ばせばすぐにいた恋人は、同じ屋根の下に居るのに姿が見えない。こんなのって、あるか? まったくもって、切ない。寮内で隠し通そうとすれば、そりゃそうなるだろうし、公言すればしたで、問題があるだろう。羽鳥たちだって、隠している。 「そりゃまあ、俺は無神経だし、気遣いなんかできねーけど……」  吉永とエッチしたいわけじゃないんだ。いや、したいけど。したいけど、そういうことじゃないんだ。抱きしめて、安心したいんだ。髪に頬を寄せて、愛しいと思う気持ちを抱きたいんだ。皮膚の匂いを嗅ぐと、くすぐったい気持ちになるんだ。  肉欲を抱くのは、仕方がない。そういう意味で、好きなんだから。たまらない気持ちになって、すごく大事にしたくなると同時に、全部壊したくなるほどの激情が胸に湧きあがるんだ。それを、制御するのは難しい。 「……だから、逢わないってか……。くそぅ」  溜め息を吐き出して拗ねていると、ベッドに投げ出したスマートフォンが鳴りだす。表示を見れば、吉永からだった。 「もしもし」  不機嫌な声を出して電話に出た俺に、吉永がプッと笑う。 『めちゃくちゃ不機嫌じゃん』 「こちら航平。絶賛拗ねてる最中。どうぞ」 『こちら律。拗ねてる航平くんにおやすみの電話を掛けてみました。どうぞ』 「なんだよもう。全然平気な声しやがって」 『そうじゃないけど。航平が想像より全然ダメそうでビックリし過ぎて寂しがるタイミング逃しちゃったんだけど』  なんだそりゃ。クソ。もっと寂しがれ。そんで「やっぱり航平と離れるのは嫌だな」とか言って、泣きついてくりゃ良いんだ。 『おれだって、キスしたいよ』  甘い声でそう囁く吉永に、ぐっと胸が掴まれる。 「……顔見たい。テレビ電話にして」 『え? あー。まあ、良いけど』  テレビ電話に切り替わる。画面に吉永が映り込んだ。ベッドの上で電話していたらしく、枕の上に寝転がっていた。画面越しにそうやっているのを見ると、何だか隣に眠っているような気もしてくる。 「同じ寮内なのに電話してるの、なんか変な感じだ」 『おれは新鮮な感じもするけどね』 「まあ、解る」  画面の中の吉永が、俺をみているのが解る。穏やかな口元で、すごくリラックスした様子だ。髪を撫でたい。抱き寄せたい。逢いたい気持ちと、愛しさが、より一層濃くなった気がする。 「髪、濡れてる」  思わず画面に手を伸ばす俺に、吉永が笑う。 『ほとんど乾いてるよ』  笑う声が、耳を擽る。吉永の声は、俺のイライラを取り去って、すっかり穏やかな気分にさせてしまった。触れたい。匂いをかぎたい。 (吉永も、そう思ってるんだろうか)  吉永も、俺に触れたいと思ってくれているんだろうか。画面に映る吉永の瞳は、俺のことしか映していない。少し熱っぽく感じる視線と、薄く開いた唇。  寝転がったまま、他愛のない話をする。眠くなるまで俺と吉永は、ずっと二人で喋り合っていた。

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