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六十六 そして俺は振り回される

(はー……、良かった……)  気持ちよかったし、可愛かったし。エロいし。  ベッドに転がって、セックスの余韻に浸る。あのあとベッドでもイチャイチャして、もう一戦した。しっかり充電出来た感じだ。こういう時の吉永はサービス良いし。マジで最高。  後始末してさっぱりした様子の吉永が、Tシャツ一枚でベッドに入り込んでくる。そういう無防備な恰好してると、足をしゃぶるぞ。  チラと見ると視線で察したのか、吉永は嫌そうに顔を顰めた。嫌がるな嫌がるな。 「なんでそう足が好きかね」 「足は最高だろうが。足フェチ舐めんなよ」 「はいはい」  そうやって適当にあしらってると、逆さまに寝てやるからな。そんで足を弄り倒してやる。 「あ、足の爪切ろうと思ってたのに。忘れたー」  面倒そうに言いながら吉永が布団に潜りこむ。吉永は布団を頭から被るのが好きらしく、気が付くと下の方に居る。 「切ってやろうか?」 「キモイからヤダ」 「なんでだよ」  爪切りで興奮しないもん。足の指は執拗にぐにぐにするけど。てかキモイと言うな。キモイと。切らせて欲しいって言ったら、切らせてくれるクセに。 「明日やるから良い~」 「そう言って忘れるんだろ? 知ってる知ってる」  茶化しながら、布団を直す。もぞもぞと動きながら布団を持っていくんだ。吉永は。 「そういや、祝賀会OB来るんだろ? 吉永の先輩とかも来る?」 「……」  ぴょこんと布団から顔を出して、吉永がじっと俺を見る。 「ん? なに?」 「りつ……」  不満そうに唇を尖らせて、何を言うのかと思えば。思わず「は?」と口にして、赤面する。 「りーつ。りーつ」 「ば、ばかやろう。そんな軽率に言えるかっ」  恥ずかしいんだぞ。年上の先輩を名前呼びすんの。吉永の方は名前で呼んで欲しかったのか、なかなか引き下がらない。 「はー?」 「ふ、普段はいつも通り、吉永って呼ぶからなっ。他から見たら、呼び捨てしてんのおかしいし」 「別におかしくないと思うけどな?」 「おかしくなくはないだろ」 「おかしくなくなくなくない」 「わからん、わからん」  ふざけているのか、笑いながらそう言って、吉永が頬にキスをしてくる。ふに、と押し当てられた唇の感触に、ドキリと胸が鳴る。 「まあ良いや。二人の時は、律って呼べよ?」 「――まあ、なるべく」  照れ隠しでそう言うと、吉永はそれでも満足そうだった。腕にしがみついて、肩に顎を載せて来る。 「あ、そう言えば」 「あん?」  何かを思い出したように、吉永が口を開く。 「箱根、来週な」 「は?」  え? 来週? 箱根? 「――なんの、話?」  え? 何かそういう話、したっけ? 俺が忘れてるだけ?  戸惑う俺に、吉永は歯を剥きだしにしてふん、と鼻を鳴らす。 「航平、インスタ見てるだけで、全然動かないから。勝手に決めた」 「おいおいおい」  良いけど。良いけどさ。行こうか? とは言ってたんだし。二人きりで旅行とか、最高だし。 (マジかー……)  実をいうと、少し緊張していた。つまりは、恋人として、初めての旅行というわけで――。  うわ。緊張する。 「良いけどさ。俺に予定あったら、どうすんの?」 「ないだろ?」 「ないけど。でも俺も山の誘いとかあるからね?」 「んー。じゃ、スケジュール共有しよ」 「――おう」  なんか、ますますカップルだな。すげえ照れるの、なんでだろう。こんな些細なことなのに。 (あ、そう言えば)  祝賀会の話をしようとしていたんだ。そう思って、吉永の方を見る。吉永は既に瞼を閉じて、静かに寝息を立てていた。 「……ま、いっか」  お休みのキスを額にして、俺も眠りに落ちて行った。

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