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九十 バニーは、ロマンだ
「じゃあ、おやすみ~」
「待て。どこ行く気だ」
欠伸をしながら帰ろうとする律の肩を掴む。律は逃げる気らしく、俺の手を掴んで引きはがそうとした。
「いや、部屋に、決まってんだろ。はな、せっ……」
「何、言ってんだ。お前、サービス、するんだろっ?」
ぐぐぐっと腕を掴み合いながら、逃げようとする律と、逃がすまいとする俺の力比べが始まる。
「いや、お前、酒、結構、飲んだじゃん」
「あれぐらい、平気だっ」
「おれも、結構、飲んだしっ……」
「そのぐらいのが、覚悟が決まるだろっ」
「いや、だから、それはっ……」
律の顔が、じわじわと赤く染まる。今日は絶対に、バニーを着せる。そんでヤる。絶対、虐めてやる。
俺の気迫に、律がビクリと震えた。
「ちょ、ちょっと、航平くん? お顔、怖いぞ~?」
「うるせえ。良いから来いっ」
「ひええっ」
そっちが引くならこっちは押してやる。急に力の方向を変えられ、律が転びそうになるのを、脚を掬って抱え上げた。じたばたする律を肩に担いで、部屋のドアを開ける。寮の奴らが見ていたが、もう気にしないことにした。
「ちょ、航平っ」
「お前少し痩せた? 石黒のせいだろ絶対」
前に担いだ時より、絶対に軽くなってる。肉を食わせんと。
「あー、まあ。じゃあ、そういうことで」
「律ちゃん」
笑顔で遮る俺に、律は頭を抱えて蹲った。
「~~~アレは、宴会のノリじゃんっ!」
「宴会のノリで生足晒されたんじゃ、やってらんねえのよ」
「お前だけだって、そんなキモいこと言うのは」
「俺がキモイのは事実だけど、足フェチは多いんだよ。お前の足しゃぶれるヤツは他にもいるだろうよ」
「こわっ!!」
俺を貶めて誤魔化すのを辞めろ。開き直っちゃいるが、好きな子に言われるのは傷つくぞ?
「一回冷静になって恥ずかしくなっちゃってんじゃん。最高かよ。そのまま恥ずかしい感じで頼むわ」
「もうヤダ! コイツ!」
「いやー、でもさぁ、律ちゃん」
俺は笑いながら、紙袋を差し出した。中にはもちろん、バニーガールの衣装が入っている。
「?」
「そう言いながら俺を喜ばせる方を選んじゃうのが、律ちゃんの良いところよな」
「くっ……!」
悔しそうにしながら、律は結局紙袋を受け取った。
◆ ◆ ◆
絶対にこっちを見るなと律が言うので、俺は背中を向けて待機である。背後から聞こえる衣擦れの音と、悔しそうに唸る律の声が堪らない。こうやって待っていると、ワクワク感が凄いもんだ。律が恥ずかしがりながらバニー衣装を着ているのを想像するだけで、滾ってきそうだもんな。
「き……着た……ぞ」
その声に、バッと振り返る。律がビクッと肩を震わせた。
網タイツを穿いたスラリとした長い脚。ハイレッグのバニースーツ。手首にはカフス、首には着け襟。完璧な――。
「おいおい律ちゃん。耳はどうした。耳はっ!?」
「え? お前が好きなのは脚だろ?」
「そういうことじゃねえよ!!」
バニーは、ロマンだろうがあ!!
渋々と言った様子で耳を着けながら、律は恥ずかしそうに前を隠している。恥じらいがあって非常に良いぞ。
「ニヤニヤすんな」
「無理言うな」
恋人がバニースーツ着てくれてるんだぞ。ニヤニヤしない男がいるわけねえだろ。
(しかし、恋人がバニーガールコスプレしてくれる男って、実際そんな多くないよな。俺って、幸せ者じゃん)
律の周囲をぐるっと眺め見ながら、その姿を堪能する。
「可愛い。最高。律ちゃん、マジで可愛い」
「バカすぎる」
「本当はハイヒールも履いて欲しいんだが。まあ、どうせ脱がすしな」
「どうせ脱ぐって話なら、これだってそうだろ」
もう良いだろう、そう言って脱ぎたそうにする律に、何を言っているんだと首を振る。
「こんなエロい恰好の恋人を目の前にして、普通に脱いでセックスするわけねえだろ」
「いや、それは…」
太腿をゆっくり撫で、スーツと脚の境界線を撫でる。
「っ……」
「形の良いお尻が丸わかりじゃん。尻尾も……」
ふさり、しっぽを撫でると、律の尻がぴくんと跳ねた。
「ちょ、航平……」
「俺は今まで逆バニーのほうがエロいと思ってたんだが、そんなことないな!? メチャクチャエロいじゃん!」
「お前結構、コスプレモノ見てんだな……」
これ以上呆れられる前に、その気にさせてしまおう。頬に手を当て、唇を重ねる。律は恥ずかしがっていたが、舌をねじ込んで何度も唇を吸っているうちに、徐々に身体のこわばりを解いていった。
「ん、あ……、ん……」
「律……」
スーツの胸のあたりをはだけさせ、乳首に触れる。ちょっとずらしただけでピンク色の果実が見えるなんて、けしからん。マジで、この格好で宴会に出ようなんて、どうして考えたんだか信じられない。まあ、俺が着ましたけどね?
「っ、ん……」
「可愛い、律……」
ちゅうっと首筋にキスしながら、律をベッドに横たえる。綺麗な脚が、いつも以上に美しく見える。網タイツ最高だ。今度パンスト穿かせないと。世の中には黒ストッキング派の奴がいるが、俺に言わせればそんなもんは素人だ。ちょっと透けて見える美しさ? 足の美しさはベージュのストッキングって決まってるだろうがっ。(強火)
「ん……はぁ……、ちょっと……」
「ちなみにこれ、破けても平気か? むしろ破りたいんだが」
「……もうどうにでもして」
「了解」
お許しも頂いたので、破くことに関してはOKだ。良かった。じゃないと着たまま出来ない。律はもう諦めモードに入ったようだ。やりたいようにやらせて貰おう。
乳首を吸いあげ、舌先で愛撫する。律は恥ずかしそうに悶えながら、頭を振った。その度に、耳がぴょこぴょこと揺れる。
「うさ耳似合うなあ」
「ふざけろ……っ、ん……」
「俺、律は猫っぽいと思ってたんだけど」
「あ、ん……っ」
身体にフィットしたボディスーツの上から、身体をなぞる。ピッチリしているお陰で、なんとなくお臍の位置が解ってしまう。見えないエロスというやつだろうか。非常に良い。
胸の部分は膨らみがないお陰で、簡単に見えてしまうし。エロいのに、フォーマルっぽい衣装だから、なんとなくガードが固そうにも見える。堪らない。
「律、好きだ……」
美しい脚を掴んで、膝にキスをする。網タイツ越しのキスは、少しざらざらするが、いつもとは違う風景で、興奮する。
律の視線が、膝、脛、足首と唇を滑らす俺の方を、もどかしそうに見つめる。
「っ、ん……、航平……」
律がモゾモゾと腰を揺らす。膝を擦り合わせ、恥ずかしそうに前を隠す。
「なに隠してんの」
「っ、だって…」
バニースーツを持ち上げて、律の性器が主張をしていた。ピッチリしたスーツに、形がくっきりと浮かび上がる。
「感じちゃった?」
「っ、も、やだ……っ。脱ぐっ……」
「ダーメ。せっかく可愛いのに」
「へ、変だもん」
「変じゃないだろ。すげえ、良いのに」
先ほどまでのふざけた感じじゃなく、マジの顔で言ってやると、律は顔を真っ赤にして瞼を伏せた。
「……っ。好き」
「あん? どうした、急に」
急な告白に、眉を寄せる。律は真っ赤な顔のまま、俺の顔に枕を投げつけた。
「なんだよ!」
「うるさいバカっ。変態っ。足フェチ。変態っ」
「お前、変態って二回言ったな」
「黙って。本当に。ムリ」
「……律ちゃん、急に俺が大好きなの自覚しないで」
「うるさいって言ってんだろ! マジで、なんで、こんなっ……」
本当に、可愛すぎる。
俺は律をぎゅうっと抱き締めて、額にキスをした。
「好きだよ、律」
「っ……」
律が身体の力を抜く。俺の背に腕を回して、「唇にして」と可愛いおねだりをしてくる。リクエストに答えて唇を重ね、舌を絡め合う。ちゅ、ちゅくと音を立てながら、何度もキスを繰り返した。
「ん、は――っ……」
「律……。俺も、好きだよ、律」
「……うん」
とろんとした顔で頷く律の、柔らかな髪を掻き上げる。
「そういえば律は、俺のどこが好きなの?」
と、不意に気になって聞いてみた。
真っ赤な顔をした律からは、どこという答えではなく、蹴りが返ってきた。
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