32 / 40

10-4

「嘘だろ、お前……そんなとこ……」  伊吹生は拒まずにはいられなかった。 「平気ですよ……気にしないで、伊吹生さん……?」 (これが気にしないでいられるか)  バスタブの縁にしがみついた伊吹生は、限界まで眉根を寄せていた。  はだけたワイシャツが上半身に未だに纏わりついている。ネクタイも締めたまま、スラックスとボクサーパンツは太腿に引っ掛かり、股間だけ露出しているという情けない格好にされていた。  その上、背後に突き出した尻丘のすぐ向こうには凌貴の頭があった。  尻たぶを左右に割って曝された後孔を彼の舌端が這う。  初めて施されるご奉仕に羞恥心が湧き上がり、耳まで赤くなった伊吹生は、自分の腕に額を押しつけた。  黒のカットソーにスリムパンツ、ブランド物の高額スニーカーまで惜し気もなく濡らした凌貴は、誰も知らなかった伊吹生の秘部にキスを繰り返す。  後孔表面を何度も舌先が行き来し、丹念に唾液を塗り込まれる。  同時に余熱を引き摺るペニスをまた愛撫された。 「あ……はぁ……」  何とも言い難いムズ痒さに伊吹生は抑えきれない声を洩らす。 「ぅぁ」  睾丸と後孔の間、神経が集中する会陰まで舌尖で擽られた際には、内腿が震えた。 「ここ、イイですか……?」  搾るようにペニスをしごき立てられ、会陰から後孔にかけてねっとり舐め上げられると、堪らず腰を揺らした。 「可愛いですね……伊吹生さんの腰、踊っています」 「可愛い」などという慣れない褒め言葉に伊吹生はイラッとする。肩越しに睨めば、恥ずかしげもなく臀部に顔を埋める凌貴と目が合い、羞恥心が倍増する羽目になった。 「も……もういい、さっさと……」 「今日は許してくれるんですね」 「は……?」 「前回は拒んだくせに」 「あれは……お前の上から目線が気に喰わなかったから……ッ、おい、そこやめろ……!」  これまで何ら意識してこなかった性感帯。尖らされた舌先がピンポイントで会陰ばかりをなぞり、伊吹生は弱々しげに怒鳴った。 「伊吹生さん、処女でしょう? ちゃんと解してあげないと」  湿り渡った後孔に添えられた中指の先。  ゆっくり、慎重に、窮屈なナカへ捻じ込まれていく。 「ン……ン……ぅ……!」  押し拡げられる感覚に伊吹生は喉を引き攣らせた。両腕に顔を伏せ、空中に浮かせた小高い尻をあからさまに緊張させる。 「あ……ッ」  せめぎ合う内壁を掻き分けてナカを突き進んでくる。  第二関節まで押し込まれ、腹側を優しく規則的に小突かれた。 「どうですか……?」 「ソコ、変だ……嫌だ……」 「……」 「ああッ……クソッ、なんだこれ……」  腹底で眠りについていた性感帯まで暴かれて伊吹生は混乱する。  浅い湯船の真上で身を捩っていたら、もったいぶったテンポで長い指を出し挿れされて、これまで以上に悶える他なかった。 「う、ぅ、ぅ……ぁぁ……ッ」 「声、止まらないですね」 「このッ……悪趣味……」 「伊吹生さん。僕、我慢してるんですよ? 今すぐにでも貴方のこと貫きたいのに……」  あくまで単調にゆっくり、頻りにうねるナカを蹂躙された。 「最初に出会ったときから、ずっと、我慢してる」  地道に続けられる指姦に伊吹生の体はじわじわと快感を見出していく。  昂ぶる我が身に二本目の指が捻じ込まれると、今は触れられていないペニスがピクリと頭を擡げ、新たな興奮に目覚めた。 「……嫌だ……」  ワイシャツが張りつき、くっきりと浮き出た伊吹生の肩甲骨に凌貴はキスを落とす。 「夕方から明け方まで、それだけの時間じゃ足りない。朝を忘れて貴方を手に入れたい」  欲深な求愛に理性を損ないそうになって、伊吹生は、悔し紛れに盛大に舌打ちした。

ともだちにシェアしよう!