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目には目をアルファにはアルファを【2】-4

凌貴に自分からキスをするのも礼を言うのも初めてだった。 不慣れな行為に独りでに頬が赤らみ、ガラじゃないと気まずさが込み上げてきて、伏し目がちでいた伊吹生は顔を背けようとした。 「ッ……ん……!」 真珠色の手に顔を固定されたかと思えば凌貴からキスされた。 深く、長く、濃く。 「口、開けて……?」 勝者の口づけを伊吹生はいつになく従順に受け入れる。 「もっと」 不埒な舌に屈した唇。 一方的な振る舞いに湧き上がってくる抵抗感を捻じ伏せ、明け渡した。 「ぅ」 しかし、切れている口角を執拗に刺激された際にはさすがに拒絶を示した。 「やめろ、そこ……ッ……沁みるんだよ、吸血鬼みたいにしつこく吸うな」 「あんな塵屑(ごみくず)の手を許すなんて、存外、伊吹生君も無防備だね」 「許したわけじゃない……」 「僕以外の誰かに傷つけられるなんて最悪でしかない」 伊吹生は思いきり眉を顰める。 目の前で嗜虐的に笑う凌貴を凝視した。 「お前自身は好きなだけ傷つけてもいいってことか?」 「そうだけど」 「クソッ……もう帰る、離せ」 「一千万のお礼がキス一回なの?」 何も言えなくなった伊吹生に凌貴は濡れた唇を歪めてみせる。 「そもそもバレンタインデーのお返しももらってないけど?」 (コイツは悪夢そのものだ) まんまと凌貴に逃げ場を奪われた。 追い詰められた伊吹生は底なしの歯痒さに胸を抉られるしかなかった。 キッチンにのみ明かりが点ったメゾネットの部屋。 外は宵闇に包まれていた。 「本当に誰にも触られてない?」 制服姿の凌貴はソファの上で仰向けになっていた。 「誰が俺なんかに触りたがるんだ……ッ」 制服の長袖シャツしか身に着けていない伊吹生は悔し紛れに彼を睨みつける。 伊吹生は凌貴に跨っていた。 不慣れな体位で彼の肉杭を尻膣へ招き入れていた。 「だって。拘束されていたでしょう?」 後孔を貫くペニスを軸にして怖々と腰を動かす伊吹生に、しなやかに締まった体が汗ばんでいくのに見惚れながら、凌貴は頬を緩める。 「拘束されている君、悪くなかった」 「やめろッ、悪趣味……」 「他人に捕まるのはいただけないけど。今から君のネクタイで手首を縛って、僕のネクタイで目隠ししてみる?」 「誰がするかッ……あ、ぅッ……ん……ッ」 「ねぇ、もっとちゃんと動いて……?」 「……うるさい、集中できない、静かにしろ」 真下から挿入された凌貴のペニスが怒張し、力強く脈打っているのを肉伝いに感じる。 半勃ちの我が身からは先走りの雫が滴っていて伊吹生は舌打ちした。 「君が別の誰かに触れるのも嫌なんだ」 凌貴の腹に手を突き、たどたどしく揺れていた伊吹生は忙しなく瞬きする。 「だから僕が代わりにあの荷物を運んであげた」 「荷物呼ばわりするなッ」 「自分で触って」 「ッ……は……?」 「ペニス。自分でしごきながら、もっと淫らに動いてみて?」 (淫らに動くって、なんだ、高校生のくせに淫らとか使うな) 伊吹生はこれみよがしに舌打ちする。 そして凌貴の指示に従った。 あたたかく湿ったペニスに利き手を添え、上下に撫でる。 ささやかな括れのある腰を前後にくねらせた。 「ん……っ……はぁっ……あ……」 「ほら。自分のいいところに当てて……?」 「いいところなんて、ない……」 「うそつき」 「ッ……クソ……」 狭苦しい尻膣で凌貴の肉杭も先走りを垂らし、ナカが濡れ出した。 いくらか抽挿がスムーズになり、濁った水音が立つようになると、はしたない空気感に拍車がかかった。 「はッ……ぁ……」 張り出たカリ首が内壁に引っ掛かる度に背筋がゾクゾクする。 ナカで質量の増していく肉杭に勝手に下半身が咽び泣いた。 「伊吹生君にはもっと危機感を持ってもらわないと」 「あッ……ぅ……ッ」 「僕の伴侶になるんだから。僕とツガイに……ね」 自分の手の中でみるみる勃起していったペニス。 我知らず探り当てた「いいところ」に凌貴の肉杭が擦れるよう腰を揺り動かし、脳天まで溶かすような摩擦にいつの間にか夢中になっていた。 「はぁっ……ぁっ……っ……く……っ……!」 伊吹生は……達した。 利き手が一頻り激しく上下し、見え隠れしていた頂きから迸った白濁。 思考が遠退く恍惚感に身も心も痺れた。 凌貴の真上で弓なりに背中を反らし、束の間の絶頂に溺れた。 「はぁッ……はぁッ……は……」 「イイコだね。よくできたね……」 「あ……凌貴……」 緩やかな動作で上体を起こした凌貴に、シャツがはだけて外気に覗く、汗をかいて仄かに色づく突起を舐め上げられた。 何回も、丁寧に。 もう片方も同様に、舐められ、啄まれ、露骨にしゃぶりつかれた。 「あっ……いや、だ……」 「ん……」 「ぁぁっ……やめっ……ぁぅっ……んむ……っ……ん、ん、ン……」 胸元から唇へと移動してきたキス。 唾液の糸引く口内を余念のない舌遣いで掻き回された。 「ん……ン……ぅ……ン」 「……もっと気持ちよくしてあげる、伊吹生君」 凌貴が律動を始め、伊吹生は思わず彼にしがみついた。 そのとき。 欲情を誘う粘ついた濁音と衣擦れの音色が交差していた部屋にノイズが紛れた。 「……」 凌貴の肩に顔を埋めていた伊吹生の、ぼんやりしていた双眸が俄かに揺らいだ。 携帯が鳴っている。 なかなか途切れないバイブレーション音に恍惚感は蹴散らされ、伊吹生は硬直した。 「!」 唐突に凌貴が大胆に動き、よからぬ振動が腹底に響いて伊吹生は声を詰まらせる。 そして、ソファの下で折り重なる制服の下から拾い上げられた携帯に目を疑った。 「もしもし」 そのまま凌貴は通話に出た。 「僕は伊吹生君の友達の忽那凌貴といいます。そちらはお姉さんの菖さんですね」 絶句していた伊吹生は咄嗟に凌貴から離れようとする。 「……く……ッ」 片手で尻たぶを掴まれるや否や、奥まったところにぐっとペニスを押しつけられ、逃亡する気力は一瞬で削がれた。 「伊吹生君は僕の家に来ています。明日は中学部の卒業式で高校は休みなので、泊まっていく予定です」 伊吹生の義姉相手に淡々と話しながら、凌貴は、巧みに腰を突き動かす。 熱く滾るペニスの先を尻膣の奥に強めに擦りつけてきた。 「ッ……ッ……ッ……!」 伊吹生は片手で自分の口を押さえ、もう片方の手で凌貴の肩を力任せに鷲掴みにした。 凌貴は痛みに顔を歪めるどころか。 「今、代わりますね」 伊吹生に携帯を差し出してきた。

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