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契約

例の如く、会社を定時退社し 家に帰ると晩御飯が置いてあった。 ネコヤが玄関まで出迎えて 「おかえり」と言ってきた。 戸惑いつつ、「ただいま」と返した。 「俺、一人暮らししてたし、案外家事もできるんだよ」 「あ、りがとう。でも冷蔵庫とか何もなかっただろ?」 「そうだね。調味料とかは借りたけど、荷物取りに行くついでに買ってきた」 作ってもらった晩飯をいただきつつ 昨日、うちの前に倒れていた経緯とか これからについて詳しく聞いておく。 どうやら、今朝言った通り、 昨日から同棲する予定だった彼の家に 少ない荷物を持って向かったら 他の女がいて 「同棲?え?本気にしたわけ?無理無理、俺、子供欲しいし」 と半笑いで返されたらしい。 とにかく荷物を駅前のコインロッカーに 預けてぼんやりと歩いていたら うちのアパート名前で倒れることになった、と… 「で…、なんだけど、当分置いてもらえないでしょうか」 「無理です」 「えぇ〜!?ちゃんと家事もするし、貯金はあるから家賃半分出すから、お願い!!」 「貯金あるなら、安いアパートでも借りればいいじゃないか」 「無職だからって断られた」 「…、はぁ…」 「それに、遠田さん、俺のタイプだし、ね!今朝みたいなご奉仕もするから」 「だから、それは当分保護するにしても不要だ。2度とするな」 「なんで!?あんなに気持ちよさそうだったじゃん!僕、お店でもかなり人気だったんだよ?」 「…、わかった。当分は住んでいいけど、とにかく奉仕はするな」 「えぇ〜…、性欲が溜まった時はどうしたらいいの?」 「知らないよ。自分でなんとかしろ」 「じゃあ、僕がお金払うから!だめ?」 「俺は風俗のキャストじゃない」 「ちぇ〜、ケチ。いいモノ持ってるんだから使わせてよ」 「出ていってもらってもいいけど」 「わかりましたー」 ネコヤは膨れっ面をしているけども 今朝のようなことは本当に困る。 別に男とか女とか無しにしても 恋人でもない相手とヤるというのは なんか俺の倫理観に引っかかる。 それにアラサーだからか 体力の消耗がひどい。 今日一日、眠くて定時で帰れたのが奇跡みたいだ。

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