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僕には勿体無い

遠田さんはいつも定時で帰ってくる。 それが嬉しい。 ラインは毎秒返ってこないけど 「腕を切る」というと本気で心配して すぐに連絡をくれる。 それがとても負担になっていることは 重々承知なんだけど 自分の欲求を止められない。 僕が薬を使ったとき、 もう遠田さんとの生活も終わったと思ったけど 彼は何を思ったのか責任とか言って 恋人になってくれたし、 薬を使われたくないから、と定期的に エッチもしてくれる。 なんだこれ…、最高か? スパダリとまでは言わなくても 絶対逃しちゃいけないやつだ。 浮気の心配はないんだけど、 1番不安なのは 遠田さんは別に僕を好きじゃないということ。 遠田さんに限って 僕の恋人である以上は 他の人と付き合ったりはしないだろうけど 遠田さんが本気で好きな人に出会ったとき 僕は間違いなく捨てられるだろう。 こわい。 ちゃんと僕を好きになって欲しい。 でも、遠田さんみたいな人が 僕みたいな元風俗メンヘラを 好きになるわけがない。 いつかくる暗い未来を想像しては 気が重くなり、カッターを握ってしまう。 でも、僕が腕を切ろうものなら 遠田さんが嫌な気持ちになると思う。 それどころか放り出されることもあり得る。 なんとか思いとどまってるけど いつまで続くのかなぁ。 「はぁ…」 土曜日。 晩御飯を作りながらため息をつくと 「大丈夫?体調悪いなら、なんか出前でも、取る?」 と、いつの間にか後ろにいた遠田さんが 心配げに顔を覗き込んできた。 「わっ!びっくりした!」 「ごめん。なんか思い悩んでそうだったから…、一応足音は立ててたけど」 「僕が気づかなかったんだね。全然、大丈夫だよ!元気!」 「そうか?」 不安げな顔をしてる。 「それに、もうすぐ出来上がるから、出前は結構だよ」 「わかった。もし、辛かったら明日は外食でもいいからな。出前でもいいし」 「大丈夫だよ!それに、遠田さんの食べるものは僕が作りたいから」 「そ、そうか」 遠田さんが分かりやすく引いてる。 「きも」とか「うわ」とか言わないところが、彼は優しいと思う。 隠しきれてないけど 僕のことは傷つけない。

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