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また解雇
今日は週にたった3回の出勤日。
重い腰を上げて支度をする。
大抵は20時から3時ごろのシフトだけど
たとえ出勤日でも晩ご飯は
遠田さんと食べられるのが良いところだ。
バー、意外と自分に合ってるかも。
今までのバイトの中で1番続いてるし。
深夜手当がつく時間もあるから
出勤日数の割には収入もある。
20時の10分前にお店に行くと
マスターが渋い顔で僕を出迎えた。
この感じ、知ってる…
「ネコヤくん、お客さんに手出した?」
「えっ…、まあ、出したというか、出されたと言うか…」
前々回の出勤日の時に
たまたま風俗時代に通ってくれていた
おじさんが来店した。
で、終業後、誘われたわけなんだけど
僕は遠田さんがいるし断った。
が、どうしても僕を忘れられないから
記念に最後に一回だけ付き合って欲しいと言われて、断りきれず…って感じだけど。
「はぁ…。そのお客さんからここのスタッフから誘われて、男だから怖くて断れなくて、無理矢理そう言う行為をさせられたってクレームが入ってるんだよ。辞めさせなければ、ネットに晒すとも言われた」
「そんな!違います!お客さんの方からお願いしてきたんですよ!?」
「それでも、従業員がお客さんに手を出すバーって書かれちゃうと困るんだよね。顔写真とかも晒すって言ってたし、ネコヤくんもそうなると困るだろう?」
「それはそうですけど…、僕、やっと上手く働けるようになったのに…」
最後の一回に付き合ってあげたのに
なんでこうなったのか…
だいたい原因はわかってる。
ホテルから出る前に告白された。
もちろん、断ったけど
かなり粘ってお願いしてきた。
同棲している彼氏がいることも話した。
すると相手は怒って「覚悟しておけ」と捨て台詞を吐いてさっさと帰って行った。
覚悟って…、こういうことか。
最後に一回だけなんて言葉、信じなきゃよかった。
結局僕は、泣く泣くバーをやめることになった。
トボトボと帰宅すると、遠田さんがまだ起きてきた。
まだ9時にもなっていないんだから当たり前か。
「どうした?シフト間違えてたか?」
僕が戻ってくるなんて思いもしない遠田さんは驚いている。
「また辞めさせられちゃった」
いつもはケロッとして言えたのに
今回はうまくいっていたばかりに
そう言う声が震えてしまった。
ただごとではないと思ったのか
遠田さんは俺をソファに座らせて
温かいお茶を持ってきて聞く姿勢をとってくれる。
その優しさに甘えて僕は今回の
辞めるに至った経緯を話した。
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