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ホテル
家に着いたのは0時の少し前だった。
もう遠田さんは寝てるかと思ったら
リビングで本を読んでいた。
「ただいま。起きてたの?」
僕がそう声をかけると
遠田さんはゆっくり振り向いた。
「初出勤の割には遅くまでいたんだな」
「あ、あ、うん。ちょっと帰り際混んじゃって」
「そう」
なんだか、遠田さんに近づきたくなって
隣に座る。
遠田さんは本に目を向けたまま、
僕の頭を撫でた。
なんか最近、よく頭を撫でられる。
ゆっくりした手の動きにうっとりしていると
遠田さんの手が止まった。
「髪、濡れてる?」
「え?あ、そ、外!暑かったから汗かも!ごめん、シャワー浴びてくるね」
慌てて椅子から立ち上がった。
まずい。
お店のシャワー浴びたあと、
ちゃんと乾かすんだった…
次は気をつけなきゃ…
「そう」
僕の慌てっぷりに遠田さんが驚いてる。
嘘つくの下手ってよく言われるんだよね。
勘付かれるのが怖くて、
起きてる遠田さんを堪能したい気持ちを抑えて僕はお風呂場へ向かった。
それから、何度か出勤したけど
やっぱり1日の指名数はそんなに多くなくて
言えば増やしては貰えるそうだけど
僕的には満足していた。
あのお客さんのことと
遠田さん以外の人に触れる不快感が
気がかりではあったけど。
「緊張してます?」とは言われなくなった
何度目かの出勤日。
僕は指定されたホテルに着いて
足がすくんだ。
ここ、あの人が使ってたホテルだ…
でも、まさか、ね。
だって、前のところの倍の値段はするし
指名料だって安くないはずだ。
時間だって180分と長い。
あの人な訳がない。
ただの偶然だ。
僕はなんとか自分を奮い立たせて
指定された部屋のチャイムを鳴らした。
鍵が開く音がして、部屋のドアが開いた。
そうだ、ここはオートロックタイプだったなと思い出した。
現れたのはあのお客さんだった。
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