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希望?
翌朝、遠田さんは有給を取って
本当に僕に付き添って色々な
手続きをしてくれた。
店長は
「そんな客が利用したなんて信じられない。もちろん、出禁にするし、警察にも被害届は出す。ネコヤくん、こんな素敵な恋人がいるならうちみたいなお店は辞めなさい」
と、9割僕が悪いのに色々と動いてくれた。
急なのに辞めることも認めてくれたし。
巻き込んだのは僕なのに。
あのおじさんにマークされてるってわかってて、お店で働いたのに。
みんなの優しさが痛い。
冷たくされるより、優しくされる方が辛いなんて訳がわからない。
また鼻をグスグス鳴らしていると
隣にいる遠田さんが背中をさすってくれる。
夕ご飯を反省の気持ちをこめて
遠田さんの好物でまとめた。
夕食を終えると、遠田さんから提案された。
「ネコヤ、まだ働きたいって思ってる?」
迷ったけど、おずおずと頷いた。
もちろん、遠田さんの負担を減らしたいという気持ちはある。
それ以上に、もし家を追い出されたら、働き口があったほうが心強い。
今回のことで分かった。
僕のしでかすことで、いつ遠田さんが見放すかわからない。
「ちょっと前から思ってたんだけど、俺の職場の近くのパン屋で働かないか?」
「パン屋…?遠田さんの会社の近くの?」
「そう。まあ、今までの職場と違って朝は早いかもしれないけど、いざとなったら俺が駆けつけられるし、割と人通りの多いところだから変な人も来ないし」
「なんで…?」
なんで、遠田さんは僕みたいな奴を
職場の近くで働かせられるの?
戸惑っている僕を見て、遠田さんは勘違いしたようで「ネコヤが嫌なら断ってくれていい」と、困ったように微笑んだ。
「遠田さんがいいなら、僕、そこで働きたい」
「無理してないか?」
「ううん。パン屋さんは初めてだから緊張はするけど、やってみたい」
「そっか」
僕がそういうと、遠田さんはほっとしたように笑った。
詳細は明日聞いてくるからと言うと、食器を洗うために席を立った。
昨日からピリピリしていたけど、僕が働くのに前向きだからか空気が柔らかくなった。
今度こそ、うまく行くといいな。
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