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同僚

一緒に履歴書を書いたり 遠田さんから話をしてもらった甲斐もあってか バイトに受かることはできた。 腕のイカ焼きみたいな痕は 包帯で隠すことにしてもらった。 本当は男手として裏方の焼く方に 回って欲しいみたいだけど 最初はレジ打ちとか接客の方を 担当することになった。 もはや初出勤をしすぎて 緊張とかもなかったけど 良い人ばかりで ちょっと価格の良いお店だからか お客さんも優しい人ばかりだ。 それに、たまに遠田さんも パンを買いにくる。 だんだんと接客にも慣れてきたころ、 いつもは1人で来店する遠田さんが 男の人と一緒に来た。 「いらっしゃいませ」 いつも通りの挨拶をする。 「こんにちは。君が八尋くん?」    「あ、はい。初めまして」 遠田さんの隣にいる人が声をかけてくる。 八尋、という響きに肩が跳ねる。 「ネコヤだから。ネームプレート見て。 お前はネコヤって呼んで」 すかさず遠田さんが訂正する。 僕のネームプレートはパン屋の奥さんの 手書きで「ネコヤ」と書いてある。 隣に可愛い猫のイラスト付きだ。 「え〜!?遠田は名前で呼んでるじゃん」 「俺は良いんだよ。お前はダメ」 「…、わかったよ。睨むなって」 遠田さんって会社の同僚とかとは こんな感じで話すんだ。 当たり前かもしれないけど 僕といる時とちょっと違う。 新しいことが知れて嬉しい気分と 僕にももっと砕けてくれて良いのにと 思う気持ちとで複雑かも。 「うるさくしてごめん。今日のおすすめは?」 いつも通り、遠田さんがおすすめを 聞いてきたから、準備していた通りに返す。 「今日は、クリームパンと、あ!地元のお肉屋さんが持ってきたベーコンで作ったパニーニもおすすめ!…です」 遠田さんの同僚がいたことを忘れて ついタメ口で話してしまった。 「じゃあ、パニーニ買おうかな」 「はい。あ、その、遠田さんのお友達は…」 「俺は飯田です。じゃあ、クリームパン貰おうかな。あ、あとトーストも」 「かしこまりました。お待ちください」 手慣れた感じでパンを包んで それぞれ会計をする。 お店を出る時に飯田さんが振り返った。 「今度さ、3人で飲みにいかない?」 「えっ?」 それはちょっと…、行ってみたいかも? 仕事中の遠田さんの話とか聞きたいし。 「断って良いぞ」 「おい。ネコヤくんに聞いてるんだから」 「え、えっと、ぜひ」 「やった!日にちは遠田に連絡するね。 じゃあ、またね!」 「あ、はい。ありがとうございます」 ペコリと頭を下げる。 遠田さんはちょっと困った顔をしてる。 …、断った方が良かったかな… 責任をとって仕方なく恋人になった人を 職場の人と一緒にさせたくないよね。 また迷惑かけちゃったかも。

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