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自分が蒔いた種

あのおじさん事件から早1ヵ月。 パン屋さんのほうも慣れてきて ようやく裏方の焼く仕事も教えられ始めた。 仕事の方は順調だけど、問題は遠田さんの方… あれ以来、一向に手を出してこない。 最初はもちろん、僕がボロボロだったのもあって体に気を使ってくれてるのかな、と思っていた。 でも、さすがに1ヶ月も立てば傷は完治している。 後ろの方も最初は座るのも悶絶するくらい 傷だらけだったけど元通りになった。 どうして…? それとなく誘ってはみても完全にスルーだ。 ふと、思い出した。 元彼は、おじさんを相手した後に 抱きたくないと仕事の後は触れるのも嫌がった。 つまり、そういうことでは!? 勝手にそういうところで働いてたし、 あのおじさんからはそういうことされちゃったし、遠田さん的にはもうそういうことしたくないのかな。 僕の再就職のために色々と手を焼いてくれたけど それはただの優しさであって 恋人としては振舞いたくないのかも… 完全に自分が蒔いた種だけれど 正直、かなり辛い。 かといって、遠田さんに強制するのも嫌だな… それで「出て行ってくれ」とか 「恋人解消しよう」とか言われたら もう僕、手首切り落としちゃうよ… 今日はお休みだから 余計なことたくさん考えてしまう。 もっとシフト増やしてもらおうかなぁ うだうだしながら家事をしていると もう遠田さんが帰る時間だった。 いつも通りお出迎えをする。 と、ちょっと困ったような表情で 「ただいま」と言われた。 最近ずっとそう。 僕の顔を見るたびに少し困った顔をしている。 気になるけど…、聞けない。 夕食を食べ始めるまで少しぎこちないような空気が流れる。 そんな空気を払拭したくて思わず、僕は声をかけた。 「あのっ」 「ん?どうした?」 箸を動かしていた手を止めて、遠田さんが僕をみる。 「え、えっと…、僕、バイトのシフトを増やしてもらおうかと思ってて…」 「なんで?」 「え?…、日中、結構暇で」 快く了承してもらえると思ってた僕は しどろもどろになってしまった。

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