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言っちゃった

「それだけ?」 なんとか捻り出した理由に 遠田さんが詰め寄る。 「そ、それだけです」 「…、正直、あのおじさんのこともあって、 俺はあんまり八尋を外に出したくない」 「…、そ、そうだよね。ごめんなさい」 僕、自分のことしか考えてなかった… シフト増やしちゃうと遠田さんに 心配かけちゃうのか… 「分かった。シフト増やしてもいい。 俺も極力、八尋を応援したいし。 ただ、本当に暇なだけなんだな?」 遠田さんは本当に優しい。 僕のわがままを聞いてくれる。 だからこそ、じっと目を見られて 問われると嘘をつくのが辛くなる。 「…、ほんとだよ」 「八尋、なんか言いたい事があれば 言って欲しいんだが」 「う…、でも、日中暇なのは本当で… 暇だと、いろんな嫌な事考えちゃって」 「嫌なことってなんだ?」 「そ…、れは…」   射抜くような遠田さんの視線。 もう言ってしまおうか…? でも、嫌われたくない。 「本当のこと言ったら、遠田さんは 僕のこと嫌いになっちゃう」 どうしよう。 目の奥が熱くなってきた。 泣きそう。 遠田さんの前でヘラりたくない。 遠田さんは席を立ち、 僕の隣に座って背中をさすってくれる。 優しい手。我慢できない。 遠田さんに抱きついて勢いで言ってしまった。 「なんで抱いてくれないの?」 強く抱きついているため、 声はくぐもったけども 聞こえたはずだ。 言っちゃった… ど、どうしよう… 「ごめん」 そう言われた瞬間、心臓が凍りつく。 遠田さんは優しいけど やっぱりそう言うのは無理なんだ… と、ショックを受けたところで 俺は遠田さんに持ち上げられていた。 「えっ?えっ!?なに…」 慌てていると、遠田さんは僕を抱き上げたまま 寝室にズンズン歩いて行く。 で、ベッドにおとされた。 驚いて固まっていると 遠田さんが僕の顔の横に手をついて 逃げるなと言わんばかりに床ドンされた。 「八尋があの一件で、こう言うことされるの 辛いかと思って辞めてたんだけど あんな誘い方されたら止められない。 多分ひどくすると思う」 遠田さんは獰猛な目をしているのに 辛そうな顔をしている。 でも、遠田さんになら酷くされてもいいから抱かれたい。 それで、「遠田さんにならいいよ」と 僕は答えた。

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