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イライラ

※遠田視点です なんとか飯田には口止めをしたけど それ以来ことあるごとに八尋のことを 聞いてくる。 全然教えないけど。 あの日、八尋は泣いていたけど 次の日からは前よりも明るくなったし 家ではひっついて来て可愛い。 まあラインの量は相変わらずだけど 手首を切るとかそういう脅しはしないし パン屋の周りに出る野良猫の写真や 新作のパンの試作を任せられたからと 使ったパンの写真を送ってくる。 そういうのを見ていると 「またネコヤくん?」と飯田が 絡んでくるがウザい。 また会いたいとか言われるけど 会わせるわけないだろうが。 仕事中、また携帯が震えた。 八尋かな? 後で確認しておこうと鞄にしまい、 俺は会議に向かった。 思ったより会議が長引き、 いそいそと携帯を確認すると 八尋からではなく、親からメールが来ていた。 『今年のお盆は帰るの?』 そうか… もうそんな季節か… 一応、長期休暇のたびに帰省はしているが 今年は八尋がいる。 八尋も…、着いて来てくれるか? 帰ったら聞いてみるか… 帰宅して、八尋に声をかける。 「お盆って八尋は休みなのか??」 「うん。パン屋さん自体が閉店するみたい。 息子さんたちが帰るから閉めるんだって」 「そうか。実は、毎年帰省してて」 「あ、そうだよね」 少し寂しそうな八尋。 やはり、1人は嫌なんだな。 俺は思い切って提案する。 「もし、八尋さえ良ければ、俺の実家に行かないか?」 「えっ…!?」 「いや、嫌ならいいんだけど」 「僕、一緒に行って良いの!?」 「もちろん」 「嬉しい!じゃあさ、なにかお土産買って行こうよ!僕、おすすめのお菓子屋さんがあって…、あ…」 「どうかしたか?」 「僕のことだけど、友達って紹介してもらって大丈夫だから!『同居人』って紹介すると、案外すんなり受け入れてもらえるから」 「へぇ」 八尋は元カレとか恋人とか多いタイプだとは 思っていたけど、誰かの実家に行ったことあるんだな。 紹介するところまで進展したことあるのか。 分かっているのに、なんかイラつく。 「えと…、同居人が嫌だったら、全然、友達とか、職場の同僚とか、あ!恋人の弟とかでも…」 恋人の弟… 八尋は本当にそれでいいのか? 新たな将来とかは考えてないのか…? そう考えると、さらにイライラしてくる。

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