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帰省について
「あのっ…、遠田さん?」
八尋が困った顔で僕の顔を覗き込む。
可愛いけど、今はムカつく。
何も言わない俺に八尋は焦っている。
「やっぱり、僕が実家に行くの迷惑だよね。
お土産だけでも一緒に選ばせて」
1人になるのが嫌なくせに
会った頃は好き放題やっていたのに
最近は俺の顔色を見て
言ったことをすぐに訂正したり謝ったりする。
八尋の家庭環境も教えてもらったから
実は人の顔色に敏感なのだと思う。
思わず気を遣ってしまう姿に胸が痛む。
「違う。俺は、八尋のことを恋人だって紹介したいんだ。でも、やっぱり嫌だよな」
「えっ、恋人!?そ、それ、お家の人、困らない?せっかくの帰省なのに」
「俺は恋人とか連れていくの初めてだから、驚くとは思う。困りはしない」
「そ、そんな大事な役…、僕なんかで大丈夫?」
「まあ、八尋は前の恋人から紹介されたことあるだろうけど」
「え?な、ないよ!そんなことしてくれる彼氏いたことない」
「でもさっき、『同居人って言えば納得してもらえる』って」
「それは、僕の友達の話!紹介なんかしてもらったことないよ。だから、嬉しいけど…、遠田さんが困るでしょ?」
「何度も言うけど俺は困らない」
「そ、そっか…、あ!ご飯!晩ご飯にしよう!」
顔を真っ赤にした八尋がバタバタと
配膳の準備を始める。
「遠田さんも早く、手を洗って着替えてきて!」とせかされた。
多分、照れ隠しなんだろうな。
とにかく、八尋も一緒に帰省できることになって
俺はだいぶ嬉しかった。
今までの恋人よりも進展しているみたいだ。
今まで、恋人の元恋人に関して
こんなに執着したことがなかったな。
なんでだ?
八尋がフラフラしてるからか?
放っておかないからか?
よく分からないけども
八尋の顔を見てもムカムカしなくなったので
良かった。
ただ、紹介するうえで、
「遠田さん」と呼ばれるのはどうだろう。
実家にくれば、全員遠田だしな。
名前で呼ぶのに慣れてもらおうか。
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