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お兄さん

いよいよ、樹さんの実家に行く日が来た。 「八尋、顔色悪いな。新幹線では寝てて良いからな」 樹さんが心配そうに僕の顔を覗き込む。 ご実家が結構遠いらしく、 新幹線で3時間、そこからはご家族が 車でお迎えに来てくれるらしい。 緊張で眠られないよ… それよりも樹さんは昨日、 休暇前の追い込みということで 残業して来たし、そのあとは帰省の支度を していたから眠りたいだろう。 気を使わせないように目を閉じて 寝たふりをしていたら 樹さんも寝る姿勢をとり しっかりと眠りについたらしい。 普段は結構、キリッとしているのに 寝ているときは幼く見えるなぁ。 ああ、ただ樹さんの寝顔を見る時間だけで 今日が終われば良いのになぁ。 っていうか、男の恋人を 自分の実家に連れて帰るのに 普段通りな樹さんの肝の座り方がすごい。 ぼーっと窓の外を眺める。 景色が街になったり、山になったり、 集落になったり、を繰り返しているうちに 着々と樹さんの地元に近づいていった。 次につく駅のアナウンスが 最寄駅になったところで 樹さんの肩を揺らす。 「次の駅らしいよ」 「んん…、八尋、起きてたのか?もうそんなに時間経ってたのか」 「つ、ついさっき起きたんだ。2人とも乗り過ごさなくてよかった」 「そうだな。ありがとう。あ、兄貴もう駅に着いてるって」 「そ、そっか!」 いよいよだ… き、緊張する。 どうやら、お迎えは樹さんのお兄さんらしい。 地元の駅は、改札がなく、 駅員のおじさんに切符を渡した。 僕の地元よりもだいぶ田舎なんだなぁ。 駅を出てすぐのところに車が止まっていた。 「あ、兄貴の車だ。八尋、荷物貸して」と 勝手にトランクを開けてカバンを仕舞った。 そして勝手に後部座席を開けると 「久しぶり。こっちが八尋」と 運転席のお兄さんに挨拶をした。 「あっ、初めまして。金子八尋です」 「初めまして。君が八尋くんか。まあ、とりあえず乗って」 と、お兄さんは快く挨拶してくれた。 ひとまず、悪い印象は持ってないのかな…? お兄さんは樹さんと少し似ていて 樹さんより優しそうな雰囲気だった。 樹さんは充分優しいけど、少し硬そうな雰囲気がある。 ご実家は駅から10分くらいのところだった。 駅周辺よりもさらに緑が深い気がする。

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