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カミングアウト

食卓につくと、お父さんもいた。 樹さんが言った通り、 ちょろそうではないけども とても優しそうな人だった。 全員が成人済みと言うこともあり、 お酒を勧められた。 緊張もあったから僕はお酒の力も借りることにした。 お母さん以外はお酒を飲んでいる。 百合さんも結構飲むみたいだ。 食事がある程度進んだあたりで 樹さんが「大切な話がある」と切り出した。 それぞれ話していたが、場が静まる。 「俺、ここにいる八尋くんとお付き合いしてる」 「お付き合いさせていただいてます」 単刀直入に言った樹さんに便乗して 僕は頭を下げた。 「そうか。将来のことも考えてるのか?」 お父さんが静かに聞いた。 「考えてる」 樹さんがきっぱりと言い切った。 「そう。今まで、こんなふうに恋人を連れてくることがなかったから、お母さんは嬉しいわ」 樹さんにそっくりな微笑みでお母さんが僕に話しかけてくれた。 「そうだな。確かに初めてだ。だいぶ飲んだけど、お祝いということで飲み直すか」 お父さんも目尻を下げて、みんなのグラスにお酒を注ぎ始める。 「ほらな。大丈夫だったろ?」 樹さんが僕を見て笑った。 樹さんが僕を好きじゃなかったとしても こんなふうに温かく受け入れてもらえて 僕は涙が出そうになった。 これが本当だったらどんなによかっただろう。 でも、今日だけは手放しで喜ばせて欲しい。 「八尋、泣いちゃった」 馴染む視界の中、隣の樹さんが 僕の頭をヨシヨシしてくれている。 「ありがとうございますっ。樹さんのこと、大切にします」 ぐすぐすと鼻を啜りながら言うと 「案外男らしいのね」とお母さんが笑った。 そこからはまた和やかにお酒の席が進んだ。 僕は酔いが回ってきたので 余計なことを言う前に布団に入らせてもらった。 みんなはまだ飲むみたい。 布団に入ってからすぐに意識がなくなり、 ふと目を覚ますと1時間が経過していた。 隣には樹さんはいない。 みんなまだ飲んでるのかな? 少し気になって僕は布団から出る。 廊下からダイニングに続くドアを開けようとしたら「本当にびっくりしたわ〜」という樹さんのお母さんの声で思わず手を引っ込めた。 「八尋のこと?」 「ええ。だって紹介したい男性がいる、なんて言われて二重にびっくりよ。樹が人を連れてくるってだけで驚きなのに」 「でも、受け入れてくれたんだ」 「ええ。だって樹が幸せそうなんだもの」 声な感じからして、樹さんとお母さんの2人が残っているらしい。 他の人は寝たのかな? 盗み聞きは悪いと思いつつも 樹さんの本心が気になって動けない。 さらに耳を澄まそうとした。 「部屋にいないと思ったらこんなところにいたんだ」 棘のある声が不意に聞こえてびっくりする。 薄暗い廊下に百合さんが立っていた。 「えっ、あっ、百合さん。すみません」 ダイニングに入りたいとかと思って 僕はドアの前から退けようとした。、

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