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本音
「八尋は俺と別れることには
なんの抵抗もないんだな」
傷ついたような樹さんの声がして
頬を挟んでいた手が外れた。
意外な言葉に僕は目を開ける。
樹さんは泣きそうな顔をしていた。
「へ?」
「あくまで、自立したらもう俺のことは必要ないんだな。
分かってたけど…、ショックだ」
「…、い、樹さん?」
樹さんは無言で部屋の電気を消すと
布団に入った。
「もう寝よう。明日は13時の新幹線で帰るから、ゆっくり寝ると良い」
「ま、待って!その、樹さんは僕と別れなくても良いの?」
暗いから樹さんの表情は分からない。
けど、今のまま寝てしまったら
もう大切な話が出来ないかもしれない。
「…、最初は面倒なやつが来たと思ったし
早く出ていけば良いと思ってた。
でも、色々傷を背負いながらも頑張る八尋を見てたら、手放したくなくなった。
八尋は俺を生活や心の拠り所として頼ってくれているだけなのに」
「違う!ただの頼りになる人ってだけなら
僕はもうとっくに手頃なゲイの知り合いに頼ってるもん。
僕、ちゃんと樹さんのこと好きだよ。
だからこそ、もう負担になりたくない」
「そうか」と呟いた樹さんの声は
もう不安そうじゃなかった。
「負担なんかじゃない。
恋人から頼られるのは嬉しい。
もっと頼り切って、1人じゃ立てないくらいで構わない」
「樹さん…」
ぎゅっと抱きついた後で、ん?と思う。
あれ?なんか意外と樹さんも
重いこと言ってない?
「あっちに着いたら、うんと甘やかすから
とりあえず今日はもう眠ろう」
と、樹さんが言い、背中をトントンしてくれる。
わあ、甘やかされたぁいと幸せな気分に浸りながら、僕は眠りについた。
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