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和解?

「おせわになりました」 帰りの新幹線に乗るべく、 僕と樹さんは遠田家のみんなに 挨拶をして荷物をまた車に詰め込む。 「あの…」 声をかけられて振り向くと百合さんがいた。 僕は思わず体が強張るが 昨日のような責めるような目はしていない。 それどころか、反省しているように見える。 「八尋っ」 気づいた樹さんが僕と百合さんの間に 入り込んだ。 百合さんは少し傷ついたような表情をしたけど 「八尋くんに話があって…、少し時間をください」と言った。 樹さんがアイコンタクトで 大丈夫か?と問いかけてきた。 「大丈夫です」 百合さんが好きな樹さんと 僕は付き合わせてもらってるし、 話があると言うなら聞くのが筋だ。 百合さんについて行くと そこは少し小さな公園だった。 「百合ね、友達がいないから よくここで1人で遊んでんだよね。 そしたら大兄と樹兄が来てくれて 一緒に遊んでくれたんだ。 その時に言えばよかった、好きって」 寂しそうな顔をして土を爪先でいじっている。 百合さんにとって大切な樹さんを 僕が盗ってしまったのかもしれない。 でも、樹さんは僕を選んでくれたし 僕の気持ちも大切にしたいから謝らない。 黙っていると、百合さんは僕の真正面に立った。 「ごめんね。樹兄は誰にでも優しいって言ったけど、嘘だよ。 優しいけど、どこか一線引いてて、 私には近寄らせてくれないの。 あっちからは近づいてくるけど。 だから、八尋くんへの優しさは他のみんなへの態度とは違うと思う」 「え?」 百合さんが何を言ってるか分からない。 「だからね、樹兄はちゃんと八尋くんのこと好きだし、大切にしてると思うよ」 にっこりとした百合さんの目には 涙が浮かんでいる。 自分の好きな人の恋人を応援するなんて そう簡単にはできないことだと思う。 昨日のことを差し引いても 百合さんは偉いと思う。 「あ、ありがとうございます」 ぎゅっと胸が痛んで でも、僕にかけられる言葉なんてないから 感謝の意だけ伝えた。 「はぁ…。まあ、正直、大兄でも樹兄でもどちらでも良かったんだけどね。 大兄の嫁はマジで怖いから諦めたの。 八尋くんは言えば譲ってくれそうだから強請ったけど、樹兄が怒るとあんなに怖いなんて知らなかったよ。 2度と手は出さないわ」 さ、戻ろう、と百合さんは 僕の腕を掴んで来た道を引き返した。 百合さんの指は小さくて細くて冷たかった。 背中も、樹さんの背中に見慣れたからか とても頼りなくて消えそうに見えた。 応援してくれた彼女のためにも 僕はこの気持ちを大切にしよう。

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