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性急

それから、みんなにさよならをして 僕達は大さんに送られて新幹線に乗った。 2人きりになった瞬間、 「百合になんか言われたか?」と 樹さんに心配された。 「ううん。むしろ応援してもらったよ」 「そっか。百合は根はいいやつなんだ」 「うん。そうだと思う。 人を見る目もあるしね」 「人を見る目?」 「樹さんを好きになるなんて、 センスいいと思う。 しかも昔から一途ってすごくない?」 「褒めてもらってありがたいけど 一途ではないと思うけどな。 昔は兄貴兄貴ってうるさかったし」 「そ、そうなの?」 確かに「どちらでも良かった」とは 言っていたけど 僕に気を遣わせないための嘘かと思った。 それなら後ろめたく思わないようにしよう。 夜寝るのが遅かったからか 気づいたら僕はうとうとしてきた。 「今日は俺が起きてるから、八尋は寝なよ」 と頭をぽんぽんされる。 そのリズムが心地よくて気づいたら寝ていた。 今度は僕が最寄駅で揺すられて起きた。 「ぐっすり寝てたな。疲れたんだろ」 「そんな!とても居心地よかったよ。 でも、確かに誰かの実家に行くなんて 経験ないから疲れたのかも」 「じゃあ今日は八尋を甘やかす日だな」 「嬉しいけど、僕いつも甘やかされてるような…」 とはいえ、甘えるのは大好きだから 僕はルンルンで樹さんに腕を絡ませながら おうちに帰る。 昨日の夜、あんなふうに話さなかったら 外で腕を組むなんて、樹さんに申し訳ないと思っていただろう。 しかし、気持ちを確かめて、実家に挨拶までした僕はもはや無敵だ。 家に着いて、玄関に荷物を置くや否や 樹さんに唇を奪われる。 それだけで終わるかと思ったら 食べ尽くされるようにキスをされた。 体重をかけられて逃げられないし 僕は後ろに倒れ込みそうになるのを ドアに背中を預けることでなんとか堪える。 苦しいし、体が辛くて 僕は思わず樹さんの胸を叩いた。 「玄関、やだ」 息も絶え絶えになりながら 涙目で訴えると樹さんはギラギラした目で 僕を見ていた。 その表情に思わず下腹部が疼いた。 「ごめん。八尋が可愛くて」 「玄関じゃなければ良いし」 と僕がそっぽを向いて言うと、 よし来たと言わんばかりに 樹さんは僕の靴を脱がせて 僕を担ぎ上げた。 甘やかすって言ったくせに!!

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