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へべれけ

テキトーに着替えて指定された居酒屋に向かう。 『着きました!どこら辺の席ですか?』と メッセージを送ると、飯田さんが入り口まで来てくれた。 「ごめんね、ネコヤくん」 「いえ、こちらこそすみません。 飯田さん、お久しぶりですね」 「そうだね。なんか前より明るくなった?」 「え?あ…、樹さんがちゃんと言葉にしてくれるので、少し自信つきました」 「そっか。それは良かった。 なのにもう、あいつと来たら…」 飯田さんがブツブツと樹さんの小言を言う。 心配そうに飯田さんを見ると 「ごめんごめん。席案内するね」と 僕を店内へ誘導した。 ガヤガヤとした店内の雰囲気に 飲み会ってものが少し羨ましく感じる。 今まで経験した職場でそういうのなかったし。 なかは半個室になっていて、 飯田さんがとある席の引き戸を開ける。 「飯田さぁん!どこ行ってたんですかぁ!? 遠田さんの保護者しないと!」 だいぶ出来上がった感じの女性が 飯田さんの顔を見るなり、声を張り上げた。 「すみません。本物の保護者連れてきました。 って言ってただいぶ年下ですけど」 飯田さんに肩を掴まれて 個室の中に入り込む。 二次会か三次会だからか、 10数人しかいなかった。 「だれぇ?」 ざわざわとする。 急で緊張するけど、ここに来るまで 頭の中で作っておいた自己紹介文を口に出す。 「あ、遠田さんの同居人です。迎えにきました」 「え〜、可愛い!弟さん?親戚?」 女性の人たちに囲まれる。 「え、あ…、そんなところです。 あの、遠田さんは?」 囲いから少し背伸びをして キョロキョロすると奥の方で 机に突っ伏す樹さんがいた。 「あー、はいはい。囲まないで。 困ってるからね」 と、飯田さんがかき分けてくれて なんとか樹さんのところに辿り着く。 「もぉ!いっ…、遠田さん!帰るよ!」 肩を揺する。 飲み会だからか、襟がいつもより少し開いてる。 もう!樹さん、破廉恥。 相手が相手なら落ちちゃうよ、こんなの。 ムッとしながら少しボタンを締めてやろうとしたら、樹さんがむくっと起きた。 「あれ?八尋ぉ?なんでここにぃ?」 「もう。遠田さんが潰れちゃったから迎えにきたんだよ」 「遠田さん…、ね」 一瞬、ムッとした顔をした後、 樹さんは僕に抱きついてきた。 「八尋ぉ、樹って呼んで」 「ちょっと!?やめっ」 樹さんの力に敵うわけがなく、 わりと大袈裟な音を立てて、 僕は床に倒れ込んだ。 「もぉ!酔っ払い!!」 頑張って起こそうとするけど 押し倒された状態のまま踠くだけだ。 「八尋ぉ」 挙げ句の果てにはこの酔っ払いは 僕にキスをしようとしてくる。 流石にそんなことされたら誤魔化せない。 「い、飯田さん、助けて」 飯田さんは苦笑しながら樹さんを起こす。 「邪魔をするな」と、樹さんは抵抗するが、酔っているせいでふにゃふにゃだ。 「肩かすんで、帰るよ!荷物持った?」 「カバンだけぇ」 ため息をついて、樹さんが指差した鞄を持って みんなに挨拶して樹さんを引きずって 外に出そうとする。 「遠田さんの弟さんかわいいですね」 と、ドア付近にいた女性に声をかけられる。 「自慢の恋人です」とニコニコで樹さんが答えた。 「えっ…、うそっ」 女性が口に手を当てて狼狽えている。 もぉぉぉ…、せっかく誤魔化したのにぃ。 とにかく、ここから離れようと樹さんをぐいぐい引っ張った。 「八尋、もっとゆっくり歩いて」 と言われたが 「一刻も早く帰るよ」 と言うと 「俺も早く帰りたい」 とニコニコする。 なんだよこの酔っ払いぃ!!!

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