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邂逅
樹さんはカレンダー通りの休みだけど
僕は、パン屋さんが土日も営業しているので
土日休みが被ることが結構レアだ。
たまたま土曜休みが被った日の朝、
樹さんに買い物に行こうと誘われた。
ずっとシングルのベッドで寝たり、
片方がソファ、片方がベッドで寝たり、
していたんだけど
流石に狭いし…
僕の仕事が安定したこともあって
引っ越ししてついでにベッドを買うことにした。
僕としては、僕と住むために
引っ越しなんかしちゃっていいの?と
少し不安だったんだけど
「恋人と住むために引っ越すのは当たり前だろ。しかもあの部屋、なんとなく学生の頃からずっと住んでるからそろそろ引っ越したいんだ」と言われた。
そんなふうに言われたら、
引っ越しに賛同せざるを得ない。
誰かと家具を選ぶなんて初めてだから
少し浮かれていた。
インテリアのお店を見て、
他に必要な家具も一緒に
後日送ってもらうことにした。
ついでに、とショッピングモールに来た。
「俺、ちょっと見たいものあるから、
八尋、他のところ見てきて良いよ」
と、樹さんに言われた。
「僕も一緒に行くよ?」と言ったけど
本当にただの消耗品だし、
滅多に来ないから見ておいでと言われて、
それぞれ回ることにした。
一緒に住んでるとはいえ、
1人で買いたいものもあるよね。
少し寂しいけど仕方がないと
自分を納得させて僕はキッチン用品のコーナーに行く。
前だったら絶対に行かないコーナーだけど
樹さんと住むようになってから
作りたい料理ができた。
そうなると、少し専門的な器具が欲しい。
様々な料理器具を眺めていたら
「あれ?ネコヤじゃん」と声をかけられた。
視線を向けると、
同棲を解消された元彼がいた。
「うわ…」
思わず声が漏れた。
こいつ、よく僕に声かけられるな。
どうやら1人のようだけど…
「そんな顔するなよ。あの時は悪かったって。
またさ、ご飯行ったりしようよ」
「そんな一言で済むわけないでしょ。
それに僕、もう恋人いるから
2人で会うとか無理だから」
「恋人いてもいいよ。まあ、セフレとして?」
「そういうの要らない。っていうか、彼女いるんでしょ?浮気じゃないの?」
「バレなきゃ良くね?
それに、俺ら相性良かったじゃん」
呆れるしかない。
よくもこんなやつ好きだったな、僕。
見る目なさすぎる。
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