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第10話 ※

 それからさらに十日ほど後。 「一体僕は何をやらされているんですかねえ…」  縁也の零す何度目か分からない呟きを聞きながら蓮華はぬいぐるみを抱きしめた。  事件があってから数年で蓮華はアナルオナニーがどのようなものだったかすっかり忘れてしまっていた。発情期(ヒート)の間ですらまともに触っていなかったくらいだ。そうでない時などあれからただの一回も後ろに触れたことはない。  あんなことを言った手前、自分も縁也を受け入れられるよう準備しようと考えた蓮華は、いざ拡張する段になってそれが無理であることに気がついた。挿入までの準備はできるが、その後は恐怖で自分の指すら入れられない。ディルドなどもってのほかだ。だからといって蓮華は諦められなかった。縁也を受け入れたいという気持ちは元々あったし、日に日に募る一方だった。  というわけで縁也に頼み込んで、彼の指で拡張してもらうことにした。「自分でダメなら僕の方がもっとダメなのでは?」と心配されたし確かにそうではあるのだが、背に腹はかえられない。自分でやれば手を止めてしまうのだから、他の人間にしてもらうしかないのだ。  最初は納得のいかない顔をしていたが、縁也は頑張ってくれている。蓮華も最初は恐怖と気持ち悪さしか感じなくてすぐにストップをかけていたが、次第にしばらくの間なら耐えられるようになってきた。  今蓮華は半分座るような姿勢で縁也の指を1本だけアナルに差し込まれている。何をされているか見ていないと逆に怖い。だからといって縋るものがないのも怖くて、わざわざこのためにぬいぐるみを買った。今の所そのうさぎのぬいぐるみはその体を張って十二分に役に立ってくれている。ローションがぬちぬち音を立てても耳を塞げないのが難点だが。  縁也の顔は真剣そのもので、どういうわけか腹が立ってくる。理不尽とはわかっているが、いつも駄々をこねずにはいられない。 「お前は俺の見ながらオナってるくせに」 「心配だから見てるんです。で、自分だけされるのは不公平だから僕も一緒に拡張しろって言ったのは蓮華さんでしたよね?」  声も冷静だし言っていることも正論なのでさらに腹が立つ。 「うるさい。黙れ」 「黙りませんよ。大体本当に黙ったら何か喋れってぐずって大変だったじゃないですか。赤ん坊ですか」  ぶつぶつ言いながらも蓮華の言葉にいちいち返事してくれる縁也は相当人が良い。そう思って思考を逸らそうとするが、リアルな異物感はどうにもならなかった。 「そろそろいいですかね」 「やだ、待っ、ひっ!?」  前立腺を指が掠めただけで全身が強ばる。発情期の時は恐怖で自分がどこを触っているかも分からない状態だったが、今は今で与えられた感覚をそのまま受け止めるしかないのが怖くて身が竦む。  それをなんとか我慢できるのは、ひとえにその感覚を与えるのが縁也だから。その一点だけで、蓮華は耐えている。まだ耐えられる。 「きっつ…そんな締めたらちぎれますって」 「む、むり、力抜けない…!」  やっぱり無理だ。早くも蓮華の先程の覚悟は崩れ去ろうとしていた。  縁也が溜息をつき、体を起こす。寄せられる唇にこちらから吸い付き、必死になって舌を絡める。  今までプレイ以外ではほとんどしてこなかったキスだけは、この拡張の日々が始まってから数え切れないくらいしていた。こうしている間だけは恐怖から逃れられる。舌で口の中を撫でられるだけで、多幸感に突き落とされて頭が焼き切れそうになる。  いつ指の動きが再開されたのか、蓮華にはわからなかった。キスだけではない快楽が背筋を駆け上り、頭が真っ白になる。 「んっ、んーっ!」  体を跳ねさせてようやく絶頂に達する。唇が離れ、絶頂の余韻と酸欠と途端に戻ってきた圧迫感に荒い息をする。 「キスでイくのだけは上手になりましたよね」 「嫌味か…!」 「この調子でこっちも頑張りましょうね」 「ちょ、今日はもう無理…ひぁっ!?」  こうして蓮華の体力か精神の限界が来るまで拡張を続け、後始末をした後2人とも疲れきって眠るのが最近の日常となっていた。  どうやら道のりは果てしなく長いようだと、蓮華は他人事のように思った。

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