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第11話 ※

 蓮華が怖気付いている間に、縁也の拡張の方は着々と進んでいた。蓮華の拡張をこなしながら、時々悩ましげに吐息を漏らす余裕さえ出てきた。 「先に僕に入れてみませんか。元々そういう約束でしたし、もう僕の方はこれ以上しても意味はないし、そうすることで蓮華さんの苦手意識が少しでも薄まるかもしれないし」というのが縁也の言い分だった。  一理ある、かもしれない。そう思ってしまうほど、蓮華の方は行き詰まっていた。縁也は頑張ってくれているが、どうしても指2本から進まない。しかも少しでも快感を拾えば恐怖で気が狂いそうになる。結局口付けないと達せないままで、このままだと本当にキスイキだけが上手くなりそうだった。  それに最近プレイ欲が満たされない日々が続いている。プレイ自体はしているのだが、この後あの作業をするのだと思うと蓮華は気もそぞろになってしまうことがしばしばあった。焦るあまり、縁也がスペースに入る直前にプレイを切り上げることもあった。このままでは自分にも縁也にもよくないと薄々感じていた。  楽しみなのも否定はできない。縁也が快楽を拾う度、その一瞬だけは恐怖を忘れてそれに見惚れてしまう自分がいた。自分があんな風に、あれ以上に縁也を乱れさせられるなら。そして多分縁也も蓮華のその欲に気づいていたのだろう。  そういうわけで、先にシャワーを浴びた蓮華は縁也を待っていた。  部屋に入ってきた縁也に即座に「脱げ(S t r i p)」とコマンドを投げる。部屋は暖めていたし、蓮華も全裸で待っていた。その状況の中での性急なコマンドに苦笑を隠さず縁也が服を脱ぐ。  縁也の体はやはり綺麗で、それに見とれながら蓮華は「Good」と呟いた。  縁也は今、蓮華によって四つん這い(C r a w l)にさせられている。そのアナルには既に蓮華の指が3本入っていた。 「そこっ、気持ちいい、です」 「素直に言えて偉い偉い(G o o d)」  褒めながらしこりを撫でるようにすると、声にならない声を出しながら縁也はそそり立ったペニスから白濁をぱたぱたと零した。 「またイったのか?」 「はい、後ろだけで、絶頂っ、いたしました」  どうも蓮華の思っていたより縁也の自己開発は進んでいたらしい。縁也は少し指を動かせば快楽に鳴き、刺激を強めれば簡単に達するようになっていた。蓮華の拡張をしていた時は苦しむ蓮華の手前我慢していたのだろうか。 「そうか、俺のαは前を触らずにイくような変態だったか」 「お褒めにっ、あずかり、光栄です…っ」  明らかに屈辱的な言葉にもそう言いながら実際嬉しそうにきゅうきゅうと締め付けてくるのだからやはり変態だ。正直このまま出なくなるまで責め続けたかったが、今回の目的はそこではない。 「仰向け(R o l l)」と言うと、ころん、と縁也が腹を見せる。美しいまでの服従のポーズだ。そのまま蕩けた目で見上げてくるSubは、蓮華のことを心から信じて疑わない顔をしていた。それを跡形もなく打ち砕きたい気持ちと信頼に応えたい気持ちがせめぎ合う。 「入れてほしいか?」 「はい、いつでも」  ケアの代わりに頭を撫でながら聞くと子供のような笑みを返されて、からくも庇護欲が勝った。縁也の痴態にさっきから痛いほど兆していたものにコンドームを被せる。 「…そういえば俺、童貞だからな」 「僕も処女ですよ」  縁也が苦笑する。 「それもそうだな、じゃあ入れるぞ…っ」 「はい、あ、これやば…っ」  入れた瞬間語彙を失ったのは蓮華も同じだった。ゴム越しとはいえ、それは熱く、蠢いていて、生きているということを如実に伝えてきていた。Ωの蓮華とて自分のペニスを扱いたことがないわけではないが、心を通わせた他者の中に入るという行為は自分の手で扱くのと比べ物にならない幸福感を蓮華に与えた。蓮華はΩということもDomということも忘れ、1人の男としてしばらく感動していた。  気づけば最後まで挿入していた。ずっとこの中にいたい気持ちもあったが、いやスローセックスという言葉もあるくらいだしそれもいいかもしれないが、動きたいという欲望がふつふつと湧いてきた。  このSubを蹂躙したい。いや理性の上では丁寧に抱きたい。だがその行き着く先がどちらも同じなら。  蓮華は何も言わずに腰を引き、勢いよく突いた。狙いは先程の前立腺だ。Ωである蓮華はそこまでペニスが大きくないが、縁也の前立腺くらいなら余裕で擦れる。 「あぁっ!?」  いきなりの衝撃に縁也が目を見開き、そのペニスから勢いよく精液が噴き出して白い体に降り注ぐ。先程の垂れるような少量の射精ではない。1突きだけで縁也が陥落したのは明白だった。  それが愉しくてしょうがなかった。スイッチの入った蓮華は縁也の中が狂ったように締め付けるのも構わず突き上げ続けた。頻繁にちかちかと白い光が脳を焼き、それがさらに蓮華の理性を削ぎとった。まるで壊れた蛇口、というより暴れるホースのように縁也(‪α‬)が狂ったように喘ぎながらペニスを振り乱し、精液を撒き散らす。おかげで周りが精液まみれになってしまっているが、それすらも蓮華には面白かった。  打ち止めになったペニスをまるで玩具のように荒く扱いてやれば、今度は透明な液体がびしゃびしゃと飛んだ。それすら出なくなって萎えたものをさらに扱きながら突き上げ続けると、その時がやってきた。まず縁也の目が見開き、ひときわ背を反らせ、がくがくと痙攣し始めた。長い締め付けに食いちぎられそうになりながら、蓮華はそれを眺めた。そして縁也がようやく降りてきて、息も絶え絶えになりながら虚空を見上げるのも蓮華は見た。  それを見た瞬間、ふと、何かが蓮華を突き動かした。 「晒せ(Present)」と命じると、それだけで通じたのか目に光を灯した縁也がなんとか首を横に向けた。見せられた白い(うなじ)から目を離せない。傷つけないと心に誓ったはずのその白を、今は汚したくてたまらない。  ここを噛んだら。そうしたら、もしかしたらこのαは蓮華のΩになるのではないだろうか。そして蓮華から離れられなくなればいい。一生、自分だけのものに。その衝動のままに食らいついた。  「ぎっ…!!!」  誰かの叫びが聞こえる。犬歯といわず何本もの歯が肉を破るのを感じ、血の味が口に広がる。グロテスクでさえあるその感覚に、蓮華はもう何も出ないはずのペニスが震えるのを感じた。  しばらくして、理性が戻ってきて血の気が引く。自分は今何をした?  見下ろすと、呼吸の浅い縁也の首からおびただしい血が流れ、枕もシーツも汚している。口の中の血の味に吐き気がする。とりあえずケアの言葉を掛けてコマンドを解除し、急いですっかり萎えた自身を引き抜き、家の中を駆け回って道具をかきあつめ、患部を綺麗にし、止血を始める。ここが自宅でよかったと心から思う。そうでなければ、どこに何があるか分からず大変なことになっていたかもしれない。 「縁也、ごめん、痛いよな?落ち着いて、深呼吸して」 「蓮華、さん…?大丈夫、です、これくらい…」  どう見ても大丈夫ではないように思えた。太い血管からは外れているはずだが、縁也の顔からは血の気が引いているし、押さえているタオルがみるみる真っ赤になっていく。このまま止まらなかったらどうしようとさえ思ってしまう。蓮華の目から涙が溢れた。 「お前っ、セーフワードくらい言えよ…!」  縁也が無理やり微笑む。 「ほんとに大丈夫ですから。蓮華さん、泣かないで?噛んで欲しかったのは、僕だから。‪α‬の僕が蓮華さんだけのΩになれたらなって。多分蓮華さんもそう思ったんでしょ?それって相思相愛じゃないですか…嬉しいな…」  時々咳き込みながらゆっくりと言葉を紡がれ、こんな時までそんなことを言う縁也に気が抜けてしまう。縁也の言葉通り、案外と既に血は止まり始めていた。 「でもほんとごめん、約束、破っちゃった…一生痕になったらどうしよう…」 「僕は蓮華さんになら何されてもいいって言いましたよ?それに番の噛み跡は一生残るんですから、それこそ願ったり叶ったりじゃないですか」 「お前、ほんと変にポジティブだよな…」 「褒め言葉として受け取っておきます」 「…首輪(Collar)はそれ隠れるくらいにするから」 「えっ…えっ!?」  がばりと起き上がった縁也が「いっつっ!」と首を押さえてまた横になる。せっかく止血したのに傷口が開いてしまった。やっぱり馬鹿だ、と再度止血しながら蓮華は思う。 「それって、つまり…」 「うん、Ωにしてやることは出来ないけど、お前を俺のSubにする。言う機会逃しててごめんな」 「いや、僕もいつ言おうかなと思ってたのでおあいこです。それと、僕が蓮華さんのΩになることは出来ませんけど、蓮華さんを僕のΩにすることは出来ます。僕の(つがい)になってくれませんか?」  全裸で首をタオルで押さえられたまま、こちらを横目で見ながら縁也が口にした言葉を理解するまでに時間がかかる。最初に込み上げてきたのは笑いだった。 「…っふ、はは…!」 「なんですか、人が一世一代のプロポーズしてるのに」 「いや、こんな格好で言うことじゃないだろ」 「自分だって裸のくせに…!」  さっきまでパニックになっていた反動か今度は笑いが止まらない。止血されながら横目で必死に睨んでくる縁也を見て蓮華はますますおかしくなって、溢れる涙を拭いながらそのプロポーズを承諾した。  改めて見ると怪我以外も結構な大惨事である。精液については事前に対処していたものの、流血については当然対策をしていなかった。だから止血に使用したタオルもダメになったしベッドも枕はもちろんシーツを通り越してマットレスにまで血が染み込んでいた。それを見た蓮華は言った。 「いっそのこと新居を買うか」 「金銭感覚おかしくありませんか?」 「欲しくないのか?俺達の家」 「そりゃあ欲しいですけど」 「なら買おう。今こそ遊ばせていた金の使い時だ。まあマットレスとか取り替える方が先だけど。今夜は…タオルを何枚も敷けばいいだろ、多分」 「なんか蓮華さんってたまに思い切りが良すぎて時々心配になります。…物件はよく吟味しましょうね」 「そりゃもちろん、なんたって俺達の家だからな」  蓮華は振り向いてにっと笑った。  噛み跡は消毒と止血の甲斐あってか炎症にはならず、翌日病院に行ったが大丈夫だろうとのことだった。ただΩDomとαSubの間ではたまにあることらしく、もっと悲惨なことになった例もあるのでくれぐれも気をつけるようにと医者に釘を刺された。  ちなみに週明けに包帯を巻いて出勤した縁也を見て他の職員はぎょっとした顔になったが、特に何も触れないでくれた。本当に空気の読める同僚達だと思う。

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