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第13話
それからの日々は飛ぶように過ぎた。仕事関連の諸々の手続きは縁也が全てやってくれていた。蓮華が連絡を入れたら上司に「君はもっと休んだ方がいい」と言われてしまい、ちゃんと有給は消化しているんだけどな、と頭をかいた。
リハビリは大変だった。筋肉は衰えていたし、骨が繋がったと言われても1度傷ついた箇所に力を込めるのは怖かった。それでも利き手が使えなくなるのは困るので蓮華は必死で努力し、なんとか骨折前のように指を動かせるまでに回復した。
男はストーカー行為含め容疑を全面的に認めているらしかった。大人しく反省の意を示し、蓮華にも出来ることなら謝りたいと供述しているようだったが蓮華は断った。会うとしたら法廷で、ということになるだろう。
指が動くようになってから、蓮華は何年も連絡を取っていなかった友人に1人1人電話をかけたりメッセージを送ったりして今までの経緯を伝えた。突然消息を絶ったため忘れられたり嫌われたりしていると思っていたが逆に心配する声がほとんどで、死んだのではないかと思ったと怒られた時には悪いと思いながらも嬉しくて思わず笑いそうになってしまった。
一番最後に両親に電話した時は久々に聞く懐かしい声にこちらも涙が止まらなくなって、電話を切った後もしばらく蓮華は泣いていた。そんな蓮華を縁也は何も言わずにずっと撫でていた。「ごめん、縁也のこと言いそびれた」と言ったら「これからはいつでも話せるんでしょう?だから大丈夫ですよ」と返されてまた泣いた。
蓮華の|発情期《ヒート》が近づくと、縁也は|番《つがい》休暇を取った。発情期の周辺はΩは原則としてフェロモン抑制剤もフェロモン感知抑制剤も飲んではならない。蓮華は縁也にも休暇の間は発情期が始まる前からそれらを飲まないよう頼んだ。今まで抱えていた恐怖は薄れたものの、ここ数年間の発情期中のあの地獄を思うと今から縁也のフェロモンに慣れておいた方がいいと思った。そのための巣ごもり準備は前もってしておいたので、現在蓮華と縁也は家でいちゃいちゃし放題なのである。
「お前のフェロモンほんといい匂い…すっごく美味しそうなんだよな…」
首筋に鼻をくっつけてうっとりと縁也のフェロモンを嗅ぐ。まだ発情期に入ってはいないが、頭が沸き立つようだ。
「美味しそうってなんですか」
「そのまんまの意味。食べたくなる」
|首輪《Collar》に覆われていない|項《うなじ》についた噛み跡をべろりと舐めると、縁也の体がびくりと跳ねる。
「ちょっと、暴走しないでくださいね。後で泣くのは蓮華さんなんですから」
「分かってる。寝る時に首輪つけるんだから、ちょっとくらいいいだろ」
「…仕方ないですね」
そう言って縁也は蓮華を抱きしめ、お返しとばかりに蓮華の項に鼻を埋める。Ωの首輪は既に外してあった。
「発情期入ったら、俺のここも噛んでくれるよな?」
「当然です。…もう、怖くないですか?」
「大丈夫だって。あれから散々慣らしてきたじゃん」
退院してから蓮華の中の拡張作業は再開された。やはり最初は異物感が凄まじかったが、恐怖が薄れた分進みは早かった。もう新家の指が3本は入るようになってきたし、後ろだけで気をやる方法も思い出した。ちなみに例のうさぎのぬいぐるみは戦友として枕元に飾ってある。
「蓮華さんのフェロモンもいい匂いですよ。今はまだ薬を飲まなくても近づかないと分からないくらい微かですけど、とても甘い匂いがします。それにフェロモン自体は強い。こちらこそ理性を失いそうです」
「今から襲ってくれてもいいんだぞ?」
「まだです。まだこうしていたい。それに決めたでしょう?」
「うん」
蓮華は今回も、発情期に処女を捧げると縁也に約束した。自分でもなぜそんなことにこだわるのだろうと思っていたが、最近になってようやくわかった気がする。きっと自分は、双方理性を失う発情期に処女を差し出せるような、そして発情期まで|待て《S t a y》ができるような、そんなαSubと結ばれたかったのだ。
「楽しみにしてる」
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