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第15話
あの時は、想定外すぎてびっくりしたけど、暖が舌なんか入れてきたから抵抗したけど、でも……。
「するならするで前もって俺に承諾を取るとか、いきなりベロチュウじゃなくてもっと軽い感じのやつにするとか」
ポロリとこぼれ出た自分の言葉に琥珀は驚く。身体を丸めて頭を抱えた。
暖とのキスは、嫌じゃなかった。
時間が経てば経つほど、その事実が浮き彫りになってくる。
暖が恋しかった。
暖に親友解消されてから、ずっと暖が足りない。
この気持ちが何なのか、琥珀にはまだはっきりとは分からない。けど、暖に会いたくて、暖にそばにいて欲しくて、暖が、恋しくて心がねじれそうだった。
「暖、暖、暖」
琥珀は身体を丸めたまま、暖の名前を呼んだ。
「人の名前をそんなに連呼すんなよ」
頭の上に言葉が降ってきて、琥珀は弾かれるようにして顔を上げた。
「うわっ、なんだよその顔」
会いたい会いたいと念じた暖がそこにいた。
「暖」
立ち上がった琥珀に暖はさっと視線を上下にを走らせる。
「なんで赤く染まってんだ?」
そうして今度は何かを探すように辺りを見回す。
「早坂さんは?」
なんで暖は琥珀が早坂さんと一緒だったことを知っているのだ?
「俺がキスしなかったら怒って行っちゃった」
暖は複雑な表情を浮かべ、やがてちょっとこっち来い、と、琥珀の手を引いて歩き出す。
琥珀が恋しかった暖の大きくて温かい手が今、琥珀に繋がれている。
やって来たのは誰もいない児童公園だった。
「ほら、ここで洗え」
水飲み場の前で暖が繋いだ手を離そうとするので、琥珀はぎゅっと握りしめた。
「ちょ、手離せって」
「やだ」
「やだって、おい……」
「血の誓いの解消を解消してくれるまで離さない」
こんなふうに駄々をこねるともっと嫌われるかも知れない。でも離したくなかった。
「とにかく洗え」
琥珀は無言で握る手に力を込めた。暖は肩で大きく息をつく。
「その話は洗ってからだ」
「血の誓い、また交わしてくれんの?」
「だから、その話は後からだ」
ほとばしる水の下に頭を突っ込む。次に汚れたTシャツを脱ぎ、ニッキ水でベタついた身体を洗った。その間、暖はずっと琥珀に背を向けていた。
洗ったTシャツを絞って身体を拭いていると、暖が「ほら、これ着とけ」と背を向けたまま自分の羽織っているシャツを脱いで琥珀に渡してきた。
薄いランニングシャツ一枚になった暖に礼を言い受け取る。
シャツは暖の匂いがした。
熱いものが込み上げてきた。
「どうして……なんで? 俺なんかした?」
「琥珀……?」
暖が振り返る。視界がみるみる歪み、込み上げてきた熱いものが目から溢れ出る。
「俺やだよ、暖と一緒じゃなきゃやだよ、俺に悪いところがあったら直すから、暖の言うことはなんでも聞くから、血の誓いはどうでもいいから、全く元通りじゃなくていいから、だからお願いだから暖のそばにいさせて」
突然暖に抱きしめられた。
「琥珀」
ボンッ。太い破裂音が夜空に響いた。
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