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お直し
「おい、御子柴何やって……」
「何かしてるのは碧さんの方でしょう?!」
ドアを開けた先の階段の踊り場で御子柴はやっと手を放してくれた。手首に残った温度が強く握っていた事を物語っている。そんな下がっていく手の温度とは逆に御子柴の語気は荒かった。
「あの日から何か変ですよ……俺と一緒に居る時は会話はおろか、目も合わせてくれない。俺、碧さんになんかしましたか?」
「別に御子柴には、関係ない」
こんな時でさえ目線が上げられない。まさか自分の口からこんな冷たい言葉が出るなんて思ってもなかった。ちがう、本当はもっと別の事がいいたいのに。
「関係ないわけないでしょう?!このままずっとこの関係だなんて俺は嫌です。この際だから話してください。ちゃんと訳を言ってくれたら怒ったりなんてしませんから……」
先程の手の温度のように御子柴はだんだんと言葉遣いが戻っていった。代わりに普段より冷たい、疑いを持っているような目で碧を見ている。
「……長くなるけど、聞いてくれるか?」
「話してくれるなら何時間でも聞きます」
御子柴はちゃんと話を聞いてくれようとしている。あとは俺が話すだけ。でも、どうしても今までと違うように接されるのが嫌で。その可能性が頭をよぎってうまく言葉が出てこない。
「ゆっくりでいいですよ。急かしたりしませんから」
その声はひどく優しくて、暖かかった。今までそんな言葉をかけられた経験が少ない所為で心が楽になった。突き放すような言い方をしても許容してくれる御子柴に自分よりも何倍も大人だな、と感じる。
「長くなるけど、聞いてほしい」
「はい」
「俺の過去について」
言い切ってすぐに深呼吸をする。一息つかないと窒息死してしまいそうなほど空気が重い。そうさせているのは自分だと知っている分、きちんとけじめをつけないと。
碧は一呼吸間を置いて話し始めた。
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