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阻む

「でも帰らないと通報されると思って帰ったんだよ。そしたらまた父親がいて。性行為があった日(その日)から本格的に父親は母さんに固執し始めたんだ」  話の流れがだんだん薄暗くなっていく。でも碧は口を閉ざさなかった。目線を上げようと努力はしているようだが、やはりすぐ下がってしまう。それが碧の心境を表しているような気がして、御子柴は碧の話を遮るようなことはできなかった。 「固執?」 「あぁ。五歳の時に母さんが亡くなって、小学校上がる頃にはちょっとネグレクト気味なだけで済んでたって言っただろ?でも中学に上がる頃には多少の暴力も加わって。学校ではいろんな事を言われたりしたけど、言い返すとか、そこまでの気力はなくて」  そこで碧は一息ついた。この時、御子柴は彼の人生にとって「家族」という関係が枷にも宝にも見えている事を感じた。この人の人生は父親によって支配されていた。しかし、彼の母親が生きていたら彼はもっと違う人生を歩めていたのだろうか。 「それで、高校に上がると本格的に性行為まで加わって。何回か自殺も考えたけど父親の事を考えたら、死ねなかった。最低な状況だったけどここまで育ててくれたのは父親だから。縁を切ろうにも切れなくて」 「碧さんは、優しいですね」 「優しくないよ」  つい、口から出てしまった言葉を碧は否定した。最後まで自分が悪いと思い込んでいるのがその証拠だった。 「本当に優しかったらちゃんとおかしいことは「おかしい」って言える。正すことができる。だけど俺の場合は独りよがりで、一人になるのが怖かっただけだから」 「でも、自分が追い込まれている状況で他人の事を考えられるのはすごいです」  御子柴の言葉に納得させられたのか、碧はふぅ、と息をついた。続きを話そうとすると何かで視界が覆われた。事態を把握できずに少しパニックになる。 「御子柴?」 「もうこれ以上無理して話さないでください。もう大丈夫です。納得、しましたから」 「御子柴、はなして……」  これ以上御子柴には耐えられなかった。碧の体験、過去について知ることが怖くて、無意識に傷つけてしまっているようでどうにも落ち着けなかった。 「嫌です」 「なぁ……!最後まで、言わせて」 「碧さんは、辛くないんですか?」 「辛いけど……でも、ここまで話させておいて、勝手に止めるとか、そっちのほうがひどいよ……」  碧は御子柴の腕の中で涙声になりながら続けた。完璧にわかってもらおうだなんて思ってない。だけど、途中で話を切られて妄想の中で同情されて、憐れまれるのだけは絶対に嫌だ。 碧自身、褒められるような生き方をしているわけじゃない。でも、せめて最後まで言ってから軽蔑なり同情なりをしてほしかった。 「……すみません。勝手が過ぎましたね」 「別に、御子柴が悪いわけじゃないから……いいよ」 「ごめんなさい」  勝手な行動にでしまった御子柴は少し俯く。ギュ、と手を握ると碧を抱きしめた時の感覚がまだ残っていた。

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