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休息
御子柴と分かれて碧と上岡は自分の階にたどり着くまで無言だった。昨日倒れたことさえなかったら今頃は会話をしていたのだろうか。
碧は自分の階に着くまでひどく長く感じた。
「碧」
「……はい」
「限界、超えないようにな」
そろそろ上岡と碧が目指す階に着こうとしたその時だった。上岡がふと碧に言った。何か見透かされているような気がして碧は口を噤む。
きっとこの人は自分のこれからの行動に対して気を遣ってくれている、と。確信に近い何かがあった。顔に出すわけでもなく、ただ黙る。碧には自分がそれしかできないのだと自己暗示をかけた。
「じゃあね、碧。また後で」
「はい」
エレベーターが上岡と碧のオフィスに着いた。カツン、カツンと二人が歩み進めて別れた後。別々の部屋に入る。その間はまだ人が少ないだけあって静かだった。
「おはようございます」
「あ、そうそう。今日の新作の……」
次々と来る社員の会話を聞きながら御子柴は今日のタスクに向かっていた。ぞろぞろと他の社員が来て挨拶を交わしていく。それはいろいろな内容で、駅前の新作のパンが出ただとか、芸能人が結婚しただとか。いかにも業務には関係ない内容だった。
「御子柴さんも食べましたか?」
「え?」
「だから、駅前の新作のカレーパン!鹿児島の黒豚が使われていてほんっとにおいしいんですよ!!」
「はぁ……今度機会があったら買ってみます」
先ほどまで入り口で会話をしていた社員の一人がいつの間にか御子柴の近くに来てカレーパンについて熱弁している。御子柴は社員が今も熱弁している所だが、頭の中では黒豚か……、と少し興味がわいていた。早速今日の業務終わりにでも寄ってみようなどと考え始めている。
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