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仲直り
御子柴にすべて話終わった碧はすっきりとした気分になった。もうこれで御子柴を避けることはない。それだけなのに、碧はひどく嬉しかった。今までずっと一人で、拾ってくれた恩人にも話せなかった。碧は心から信頼できる人を持つことができたことが、ただ純粋にうれしかった。
「あの、碧さん」
碧とは対照的に今度は御子柴が少し目線を伏せる。
「ん?」
「さっきはきついことを言ってしまってすみませんでした。何も知らないのに、でしゃばりすぎました」
「いいよ。気にしないで。むしろ、避けてた俺の方が悪いし」
「でも……」
「俺は、うれしかったよ」
「え?」
「俺と向き合ってくれる人なんて、今まで弓弦さん以外にいなかったからさ。
さっき抱きしめてくれただろ?あの時、ちょっとだけ安心したんだ。ありがとう」
そういって碧は御子柴の手に自身の手を重ねる。
碧自身、人に抱きしめられるのは初めてだった。いや、初めてというのは語弊がある。碧の記憶にはあまり残っていないが、碧が高学生の頃、父親と性行為をするとき。奥までの挿入を伴う際に父親は碧の細い体を抱きしめて、突き上げた。
「……御子柴、大丈夫か?」
しばらく御子柴が黙っていると碧が彼の顔を覗き込んだ。御子柴は自分の今の顔を見られたくないから、とそっぽを向く。口元を隠して。
「大丈夫なわけないじゃないですか」
「え、どっか悪いのか?ごめんな、胸糞悪い話しちゃって……」
「違います。あの、お願いなんですけど、少し目を瞑っててくれませんか」
「ん、わかった」
碧が目を瞑ると御子柴は先ほどより、優しく。でも、力強く碧を抱いた。
少しでも碧が安心できるように。碧が未来に希望を持てるように。
内なる思いがあふれ出ていて、二人を静かに包む。
「目、開けていい?」
「はい」
「……!」
碧が目を開けるとそこには御子柴の愛用しているジャケットの色が広がっていた。彼の腕から伝わる体温が碧を温める。
(ずっとこうしていたい……)
碧は幸福感に満たされていた。父親との独りよがりの抱き合いじゃない。ちゃんと、碧に向き合ってくれる、優しいぬくもり。
「もう、ため込まないって約束、してくれますか」
御子柴が碧をそっと離して問う。碧は間髪入れずに答えた。
「……する」
「じゃあ、今日の晩。そっち行っていいですか」
「いいよ」
御子柴が来てくれるというだけでとてもうれしかった。拒絶ではなく、擁護してくれる心持だけで碧は安心できた。
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