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あと少し

 月曜日。一週間のスタートで会社が始まる日。碧はずっと金曜日の夜の事が頭から離れないでいた。御子柴に訳の分からない事を吹っかけてしまった。どこまで行ってもトラブルメーカーな自分に腹が立つ。 「碧」 「……はい?」 「コーヒー、入れてきてくれる?」 「わかりました」  せっかく仲直りしたのに、また朝食の時間に目をそらす生活が戻ってきてしまった。今回の事の発端は完璧に碧であるが、もやもやして仕方ない。 「あちっ」  給湯室に入って湯を沸かしていると湧いた拍子に飛び出た湯が碧の指にかかってしまった。急いで冷水で冷やすが、秋の終わりごろである今にその冷たさはひどく厳しいものだった。 「ボーっとしてたらだめだよな」  自分に言い聞かせるように碧は十分冷えた指を庇いながら上岡から頼まれたコーヒーを運ぶ。 「弓弦さん。ここに置いておきますね」 「あぁ、ありがとう」  かたん、とカップが軽い音を立てる。書類にかからないようにカップは紙類から一番遠い所へ置いた。 「あとちょっとだね」 「はい。今年も無事迎えることができそうですね」 「あぁ、そうだね。これも全部碧とみんなのおかげだね」 「はい」  上岡は窓の外を見ながら碧のいれたコーヒーを啜る。彼の口の中では最高の苦みとほのかな甘みが広がっていた。碧は今日も上岡の好みの味を入れることができて小さな達成感を味わった。  碧は自室に戻るとふと卓上カレンダーを見た。イベント開始まであと残り五日。着々と当日の動きが決まってきている。このままいけば順調にイベントを迎えられる。毎年恒例のこの行事は会社の創設を祝う機会でもあり、同時に会社員と地域の親睦を深めたりする場所の一つでもあった。そのうえ、海外の取引企業からも来客が来るほどで、その人気は通常の比ではなかった。 「絶対、成功させるんだ」  デスクの上のカレンダーの赤丸に決意をする。  碧は拾ってくれた上岡の恩義に背きたくない。ずっと胸を張れる仕事がしたい。その一心で上岡について来た。年々、賛同する人が増え、今ではこのようなイベントも開催することができるまでになった。碧はこの一日の為に仕事をしている、と言っても過言ではなかった。    

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