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暴走

 イベント会場から去った碧たちは無事、屋敷に着き各自の部屋に直行した。碧はひとまず腰を下ろし、髪をほどいた。緊張の糸が解けたのだろう。碧は風呂に入るよりも睡魔に負けそうになっていた。もらったレモネードも冷蔵庫に入れないといけないのに体が動かない。 トントン そんな中、突然ドアが叩かれた。「どうぞ」と立つ元気もなく、声だけで中に入るように促す。 入ってきたのは御子柴だった。少し浮かない顔をしている。 「何かあったのか?」 「碧さん。俺今ちょっと怒ってます」  そういって御子柴は隣に座っている碧を押し倒した。碧は訳が分からないといったような風貌で目を泳がせる。押し倒される理由はない。はずだった。 「ちょっと、御子柴!?何して……!?」 先ほどまでの眠気は何処へやら、碧は今起きている事象に対処することで頭がいっぱいだった。 「碧さん、俺一週間前の答え、まだ出してないですよね」 「あの件なら忘れてって……」 「俺、結構本気にしてますよ、碧さんの事。だからあの時は奇跡かと思いました」 押し倒した状態で御子柴は碧に触れながら言葉を紡ぐ。しかし普段の御子柴とは少し違っていて。その瞳は嫉妬と戸惑いにあふれているように碧は見えた。 「だけど、俺今、大人げないぐらい嫉妬してます。レモネードを持ってきてくれた女性にも、弓弦さんにも」 御子柴は打ち明けた。 碧の周りに嫉妬していることを、本人に。頭ではわかっているのに、どうしても独占欲の方が勝ってしまい、思いを口走る。しかし碧は御子柴の話に少し違和感を覚えた。 「……なんでレモネードの事、知ってるんだ?」 あの時、その場にいたのは碧とハルカの二人だけだったはず。碧は自分とハルカの気配しか感じなかった。 「碧さんと合流する少し前にあの女性が話しているのが聞こえたんです。その瞬間に俺、察しちゃって……」 「そうだったんだな。でも、心配することでもないよ……」 「わかってます……だけど、どうしても俺が、わかってはいるんですけど、そういう可能性があるんじゃないかって、考えてしまうんです」 今までのすべてを否定するように御子柴は強く言った。碧は落ち着かせようとするが、今の自分が慰めたとしても御子柴をなだめるには足りないと感じる。 「俺が好意を向けられるタイプじゃないの、わかってるだろ?」 唯一出せたのは意図しない自虐だった。どうにも長年積み上げてきた自己肯定感の低さで相手をなだめようとするのは碧の癖だった。 「そんなわけ、ないです。碧さんが知らないだけで実は結構社内で人気なんですよ、あなた」 「そう、なんだ……」 なんとかして後輩の苦悩に手助けをしようとするが、うまく立ち回れない。何か言うたびに論破されそうな雰囲気で八方塞がりだ。

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