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本音
「じゃあやっぱり答えは」
碧が口を開くと御子柴は先ほどとは少し落ち着いて口を開く。
「この前、俺に聞きましたよね。恋人同士になっても変わらずにいてくれるかって」
「まぁ、聞いたけど……」
御子柴に強制的に思い出させられている。あの時の痴態を。その場の雰囲気で言ってしまったことが今となってはひどく恥ずかしい。しかし同時に心のどこかで真面目に考えてくれて『嬉しい』と感じている自分もいる。碧の心境は普段に比べると穏やかではなかった。心なしか脈も少しずつ上がってきているようだ。
「その答え、今出します」
御子柴は息をついて間を入れる。
「俺で良ければ、碧さんと一緒にいさせてください」
凛としていた。
この瞬間を表す言葉はこれしかないだろう。御子柴の声は涼やかに部屋の中に響いた。碧は押し倒されているといえど、真っ直ぐに見つめられて顔が熱くなるのを感じる。
「碧さんにこれから先、どんなことが起きてもずっと一緒にいます」
「み、御子柴……」
「俺、結構本気です。本気で碧さんの事を幸せにしたいです。どうか、俺の隣にずっといてくれませんか」
これでは新手のプロポーズのようだ。碧はその場の流れで言ってしまった以上、責任はとるつもりだった。しかしここまで真剣に自分の事を考えてくれた人は人生上、初めてだった。実父でさえ碧に感心を寄せることは少なかったのだ。嬉しさの半面、自分はこんなに想われていていいのだろうか、相手を失望させないだろうか、などの不安ももちろんあった。
「でも、俺、御子柴にいっぱい迷惑かけたし、嫌な事もした……これからも一緒に居るってことは、つまり……その、今まで以上に手を煩わせることになる……」
そういって碧はできるだけ目を合わせないように視線を逸らす。御子柴の真っ直ぐな目に耐えられなかった。
碧は今までの失態や記憶でいかに自分が面倒な人間かを心の中で分析していた。どことなく、御子柴にはもっといい人がいるのではないか。自分なんかが釣り合うわけがないと諦めている節があった。
「迷惑だなんて、思ったことありません」
「え?」
「碧さんが何か俺に頼み事をしてくれるたびに嬉しかったし、頼りにされてんだなって感じてました」
「買いかぶりすぎだ……俺はそんな善人じゃないし。ましてやお前の思うような理想の上司でもない」
「それでも俺は碧さんが好きです」
自己否定をする碧を御子柴は抱きしめた。どうにか逃げ出そうとするも、上から押し倒されている分、碧に逃げ道はなかった。
御子柴の体温に混じって微かな部屋の冷気を感じる。しかし碧を抱いている体はそれ以上に熱かった。
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