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崩壊
御子柴に抱かれている間、碧の頬に涙が筋を作る。
「碧さん?」
碧自身もよくわかっていなかった。なぜ自分が泣いているのか。どうして止まらないのか。質問をしたときに欲しかった答えを御子柴が出してくれて満足したはずなのに。
涙が止まらない。
「ご、ごめんな……たぶん、すぐ止まるから……」
「大丈夫ですか」
「うん、なんか……うれしいのに、止まんなくて」
「ゆっくりでいいですよ」
その声はひどく優しくて。先ほどの強い物言いの面影を感じさせなかった。まるで砂糖を溶かしたお湯のような。甘ったるいほどの思いが詰まっているようだった。
どこまでいっても自分の涙腺は弱いらしい。何をするにもすぐに涙があふれ出てしまう。今この時、うれしい時でさえどうにもならないほど次々と頬を伝っていく。止まらない涙に少しパニックになり、嗚咽も混じり始める。
「……いま絶対ひどいことになってるから、みないで」
御子柴はどうにも惹きつけられてじっと見入る。碧はささやかな抵抗として腕で顔を隠すが、御子柴はやんわり阻止した。
碧は弱々しく抗議したが、御子柴は聞き入れなかった。
「自己満足でしかないけれど、聞いてくれてありがとうございました」
碧はその一言で少し悲しくなった。ショックだった。
「……嫌だ。御子柴、自己満にしないで……」
「え?」
御子柴が聞き替えす頃には碧の感情のキャパシティーが限界を超えていた。
「俺だって、御子柴のこと……すきだよっ、でも、迷惑かなって。どうしても言えなくて!先に言わせておいてほんとに、申し訳ないけど、俺も御子柴の事好きだよ……!」
ただ、悲しくて。自分も言いたいのに伝えるのが遅くなったことが悔しくて。先に言わせた挙句、自己満で処理されるのはどうにも腑に落ちなかった。
どうせ、叶わぬ恋ならば。玉砕するのも一興。
碧は思いきって伝えた。
「じゃ、じゃあ……両想いってことですか」
「そうだよ……!でも、俺の一人よがりかなってずっと思ってて。御子柴も、同じ気持ちでよかった……」
「もっと早くに言っておけばよかったです」
零れ出る涙は先ほどより大きな粒を作って碧の頬を下っていく。恥ずかしさと不安、愛しさ。全部がカラになるまで涙は止まらなかった。
碧は体を起こし、自ら御子柴の首元に顔をうずめる。もっと御子柴を傍で感じていたい。同時に泣きはらした顔を見られたくない思いが重なった。御子柴は小さい子供を宥めるように碧の頭を撫でた。
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